研究実績の概要 |
気相中の揮発性有機化合物を特異的高感度で検出するために、分析物の複素屈折率に着目した複素表面プラズモン共鳴(SPR)センサの実現・感度向上と、金属表面へのDNAの固定化によるガス分子の選択的検出を試みた。金薄膜の膜厚を基板面内で変化させたくさび型構造をもつSPRセンサを作製し、反射光輝度の角度依存性を集光レンズとカメラの組み合わせにより測定し、様々な種類・濃度をもつガスを入力した時の反射光強度の時間推移を測定した。反射光輝度と、反射率が最小となる入射角度の両方を測定することで、表面の屈折率と吸収係数の違いの両方を観測した。ガスとして親水性の性質をもつエタノールと疎水性を示し、湿布の消炎剤として用いられる匂い分子の一種であるサリチル酸メチルを用いた。濃度4, 12, 27, 90 ppmのエタノールガス、濃度7, 158 ppbのサリチル酸メチルを導入したところ、ガスの導入初期にはもともと表面に吸着していた水蒸気の脱離が見られ、その後ガス分子が吸着した様子が観測された。また、ガスを窒素に切り替えたときに、吸着したエタノールやサリチル酸メチルが脱離する様子が見られ、上記の濃度のガスを準リアルタイム検出することに成功した。上記の濃度の範囲では信号変化が濃度によらず一定であったため、より低い濃度のガスを検出できると考えられる。SEQ1, SEQ2と呼ばれる配列をもつDNAを固定化したところ、ガス供給前の水蒸気の量やガスの導入に伴う信号が大きくなったことから、感度を大きくすることができたと考えられる。一方でエタノールとサリチル酸メチルとで信号の増え方に大きな変わりがなかったため。選択的検出には至らなかった。サリチル酸メチルを認識するDNAの固定化により、サリチル酸メチルの特異的検出と生物の嗅覚(濃度0.1~1 ppb)に迫る高感度検出の実証を目指す。
|