研究課題/領域番号 |
20K21003
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
関谷 毅 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (80372407)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | フレキシブルエレクトロニクス / 有機トランジスタ / 特性補償技術 |
研究実績の概要 |
本研究は、関谷らが世界に先駆けて開発した「フローティング(浮遊)ゲート型有機不揮発性メモリトランジスタ技術」と、「柔軟性に優れたフレキシブルトランジスタ技術」を融合させることで、フレキシブル有機トランジスタ素子間の特性バラツキを動的に抑制する「特性補償技術を開発」し、数日間の連続駆動に対して安定動作するフレキシブルトランジスタ集積回路を実現する取り組みである。初年度は、以下に示す二つの目標に取り組みデバイス作製と電気的特性評価を実施した。 1)浮遊ゲート型フレキシブル有機トランジスタのプロセス最適化を目的に、浮遊ゲート型フレキシブル有機トランジスタのトランジスタサイズ(チャネル長、チャネル幅、絶縁膜厚み)、各種有機半導体材料(低分子、高分子、P型、N型)をパラメータとしてトランジスタを作製し、その電気的特性、閾値バラツキの定量的評価を行った。その結果、移動度2cm2/Vsという極めて良好な移動度を実現した。 2)閾値ばらつき( = <100 mV)の実現を目指し、浮遊ゲート型有機トランジスタによる閾値変調効果の確認と動的制御の有用性検証に取り組んだ。その結果、駆動電圧2 Vと低電圧での駆動においても、駆動周波数100kHzの回路ブロックを実現することができた。 一連の取り組みにおいて得た特性バラツキの少ないトランジスタ製作技術の成果は、世界的な欧文学術論文誌Nature Communicationsへ掲載されることが決まっている。大規模なシート型圧電システムを実現する上で重要な要素技術として高い評価を受けた。さらに低電圧駆動で高速動作可能なデバイスに関する成果についても論文投稿の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本取り組みの中で得た特性バラツキの少ない有機薄膜トランジスタ作製技術により大規模なシート型有機圧電システムを構築することに成功した。一連の成果は世界的な欧文学術論文誌Nature Communicationsへの掲載が決まった。さらに高速動作可能な有機回路技術により、もう一報の論文についても投稿の段階にある。1年目の成果が世界的な論文に掲載されるなど、当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
1年目までの研究開発において当初の予定以上の成果を実現できた。2021年度(2年目) )は、長時間連続動作時の動作安定性を検証するための集積回路の試作と実証を目的に、これまでの取り組みの有用性実証を集積回路(システム)レベルで行う予定である。 1年目までに構築したシート型圧電システムでは、大規模に集積化された整流回路などをすでに実現しているが、高速動作時、長時間駆動時の特性安定性において課題が見つかっている。実際、10時間を超える長時間の連続駆動時に特性の動的変化がみられており、課題が残る。そこで、2年目はこの課題の克服を行いたい。 具体的には、1年目に確立されたトランジスタ作製プロセスを用いるが、これまで用いていたトランジスタのチャネル長(ソース・ドレイン電極間距離)20ミクロンをさらに小さくする。チャネル長を徐々に小さくしていき、最終的には5ミクロンにする。これにより動作速度は一桁向上する試算ができる。同時に、有機半導体の成膜条件の最適化により界面の不純物除去を行う予定である。チャネル長の微細化による高速動作化と不純物に由来する長期動作時の不安定性を取り除く。このような取り組みを経て、インバータ回路、発振回路の作製を行い、最終目標である一週間の連続発振実験を試みる。 発振回路は回路内の特性バラツキが大きいと発振しなくなるため、本研究開発で実現する「特性補償技術」の有用性検証に最適である。2年目は最終年度であり、一連の取り組みを包含した長期安定動作する電子デバイスシステムを構築し、その有用性を実証することで、新たな論文投稿を進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の拡大により出張旅費などの計画において変更が生じた。一方で、オンラインを活用することで予定通りの打ち合わせ、情報収集を行っている。当初の出張旅費を消耗品などに用いることで、当初計画を上回る研究開発を進めており、その取り組みを今後も加速させる予定である。
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