研究課題/領域番号 |
20K21009
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
澤野 憲太郎 東京都市大学, 理工学部, 教授 (90409376)
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研究分担者 |
藤間 卓也 東京都市大学, 理工学部, 教授 (40392097)
藤田 博之 東京都市大学, 付置研究所, 教授 (90134642)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | ゲルマニウム / ナノドット / 多孔質ガラス |
研究実績の概要 |
本研究では、透明基板やフレキシブル基板上のIoTデバイス実現に向けて、ナノ多孔層を有するガラス基板上への高品質な半導体量子ナノ構造形成技術の確立を目指している。 初年度は、作製した多孔質ガラス上へゲルマニウム(Ge)薄膜を堆積し、熱拡散によって多孔質内を埋めるようにGe単結晶ナノドットを形成できるかについて主に検討を進めた。溶液処理によってナノ多孔層を形成したガラス基板上へ、分子線蒸着法によってアモルファスGe膜の堆積を行い、熱処理による結晶化過程を詳細に調べた。その結果、ガラス表面にナノ多孔層を形成していない場合と比較し、ナノ多孔層を形成することでGeの結晶化が大幅に促進されることが分かった。さらに、ラマン散乱分光測定より、Ge結晶は結晶歪みを有していることが分かり、熱処理過程において、Geとガラス材料との熱膨張率の差によって生じたものと考えられる。歪みは引っ張り状態を示し、これはGeバンド構造において、伝導帯のΓバレーの低下につながることから、発光遷移の直接遷移確率が増加し、発光効率向上をもたらすことが期待される。二次イオン質量分析(SIMS)による元素深さ分布評価より、ナノ多孔層中に均一にGeが分布していることが確認され、ガラス表面に堆積されたアモルファスGeが熱処理中に拡散を起こし、下部に広がるナノ多孔内にナノ結晶を形成したことが示された。形成されたナノ結晶Geの発光特性評価を行った結果、室温において非常に強いフォトルミネッセンス発光が得られた。ナノ多孔層を形成していないガラス基板上からは発光がないことから、ナノ多孔層中のGe結晶からの発光であることが実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画の第一目標として、ナノ多孔層を有するガラス基板上へのゲルマニウム・ナノ結晶の形成を掲げていた。初年度の研究において、ガラス上への結晶成長が実現していることが示され、この結晶化がナノ多孔層の存在によって大幅に促進されることが明らかとなった。この詳細なメカニズムについては現在検討中であるが、ナノ多孔層によって結晶核形成が促進されること、ナノ多孔中にGeが拡散してナノ構造を形成していることを示唆しており、大変興味深い結晶化メカニズムを提示した結果である。第一目標はほぼ達成されたと言える。 さらに第二目標は、形成したGeナノ結晶から発光を得ることであるが、すでに強い室温フォトルミネッセンス発光が得られており、当初の予定をはるかに前倒しとする成果と言える。特に、その発光波長帯はGeのバンドギャップよりも短波長領域であることから、量子サイズ効果が出ていることが示唆され、今後その検証を進めていく。 また第三目標として、このガラス基板上へ、Si基板上に結晶成長させた単結晶Ge薄膜を直接貼り合わせる技術開発を掲げている。すでにこの検討は進めており、Geとガラスの熱膨張差に起因する剥離が起こることが分かってきており、この解決のために、パターニングを用いた方法を試み、剥離の抑制効果を得ている。 以上のように、研究進捗状況は当初計画よりも進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画通りに順調に進んでいるため、特に大きな計画変更はせず、主に3点の研究課題について、以下に記載の方法で進めていく。 【① 量子構造形成】Geナノ結晶の成長と強い発光が確認されたので、ナノ構造のより詳細な結晶性評価を進める。結晶が完全に空孔を埋めているのか、空孔側面を覆っているのか、等の形状評価を電子顕微鏡等を利用して進める。結晶成長の始まる過程、特に結晶核形成から結晶化進行の過程は非常に興味深く、これまでの薄膜結晶成長にはない新たな結晶化メカニズムが発現していることが期待される。また、ガラスの溶液処理条件を変え、ナノ多孔質のサイズを制御し、結晶化への影響を探る。 【② 発光機能】Geナノ構造からの発光が得られたが、量子効果によって、本来のGeのバンドギャップエネルギー(赤外領域)を超えて、可視光領域まで発光がシフトすることが予想される。広い波長範囲での発光特性評価を進め、量子閉じ込め効果のナノ結晶サイズ依存性を系統的に調べる。 【③ 集積融合化】ナノ構造を形成した後、そのガラス基板上に、別のSi基板上に結晶成長した単結晶Ge(SiGe)膜を貼り合わせる。選択エッチングによって、Si基板は除去可能であり、単結晶Ge(SiGe)膜のみガラス上に残すことができる。ここで、熱膨張係数の違いから、貼り合わせ面が剥離してしまう問題があり、貼り合わせ強度向上が課題となる。すでにパターニング法によって改善できることを示した。この方法と、ナノ多孔層ガラス表面が超親水性を有する特長を組み合わせ、生じる歪みが多孔層によって吸収・緩和することにより、安定した貼り合わせが可能となることを示したい。さらに、貼り合わせ基板側へのアモルファス層挿入効果についても検討を始めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で、学会への旅費がなくなった。また、大学院生の登学規制などもあり、研究補助としての謝金もなくなった。結晶評価として、すでに現有のフォトルミネッセンス分光装置やラマン分光装置の利用が多く、電子顕微鏡観察などの外部委託の件数が少なかった。今年度は、コロナ収束により、学会旅費、謝金の増加、また外部委託の増加も予定している。
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