本研究課題では、メカニカルブレークジャンクション法による有機ラジカル単分子接合において得られた巨大磁気抵抗効果を利用して実用的な縦型スピントランジスタを実現することを目的とした。 最終年度である令和4年度においては、有機ラジカル分子を用いた縦型トンネル接合を形成し、分子スピンに由来すると思われる磁気抵抗効果を観測することに成功した。有機ラジカル分子のHOMOを流れるトンネル伝導領域において7 Tと強磁場ではあるが300 %に至る正の磁気抵抗効果を観測することができた。この磁気抵抗の発現メカニズムについては、明らかになっていないものの、有機ラジカル分子のSOMOがHOMOに近いため、分子スピンの影響によりHOMOを流れるトンネル伝導が変調されたものだと考えている。 また、本研究全体を通しての成果については、アルカンチオールを用いた縦型分子接合のモデル実験から始まり、非弾性トンネル分光による分子振動の観測、さらに2端子構造ではあるが有機ラジカル分子を用いた巨大磁気抵抗効果を観測することができた。また、非磁性分子ではあるが、縦型トランジスタにおいてゲート電圧による分子軌道変調に成功した。最終目標としていた有機ラジカル分子を用いた縦型トランジスタの形成までには至らなかったが、その要素技術を確立することができた。今後、さらなる研究を継続していきたいと考えている。
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