本研究は,それぞれの海岸地形特性により異なる波浪音を陸上部において計測し,波浪場をより簡易,安価に計測することを目的としている.波高や砕波形態等を把握することは,沿岸地域の災害発生や海岸侵食の危険性などが予測を推定できる重要な情報となる. 本研究では,令和2年度に茨城県波崎海岸に位置する波崎海洋研究施設にて観測を実施し,ICレコーダによる音圧レベル,相対偏差等を用いて推定を試みたが,精度はR2=0.15に留まった.令和3年度は海岸特性の異なる神奈川県国府津海岸にて観測を実施した.ICレコーダ音圧による推定では,直接比較,波の周期,風速の3通りで試みた結果,周期導入が最も精度が高くなった(R2=0.69).その後の検討により,騒音計音圧による波高推定時に検討した相対偏差が波の周期特性を考慮する物理量であり,ICレコーダ音圧を用いた推定においても精度向上を見込めることが示唆された. 令和4年度は神奈川県平塚海岸にて観測を行い波高推定を試みた.観測は2022年9月8日から11月7日まで実施し,各種10分毎の平均値を解析に使用した. ICレコーダ音圧,相対偏差,気象変数を用いて波高推定を試みた結果,台風接近に伴う高波浪時などはやや時間遅れが生じるものの,R2=0.51の精度で推定ができた.また,ICレコーダ音圧に含まれていた風切り音ノイズを除去することで,R2=0.53まで精度を向上できた(論文投稿中).さらに,同時期に相模灘の他の4つの海岸においてもICレコーダによる波浪音計測を実施しており,それらの結果と相模灘を計算領域とした数値計算により推定した波浪場との比較検討の実施により,海底勾配,および前浜勾配を変数とすることで波高推定式を一般化することができた.詳細な精度検証は今後必要であるが,ICレコーダによる陸上からの波浪音計測による波高推定の有効性について示すことができた.
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