研究課題/領域番号 |
20K21026
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
権代 由範 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (00553520)
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研究分担者 |
佐藤 徹雄 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (70369924)
迫井 裕樹 八戸工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (30453294)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | コンクリート / 耐凍害性 / 気泡組織 / 高吸水性高分子 / 粒度分布 / 吸水能 |
研究実績の概要 |
本研究では、空気連行及び空気量管理に依存しない寒冷地対応型コンクリートの実現を目的とし、高吸水性高分子(以下、SAP)を添加した非空気連行型耐凍害性コンクリートの開発を目指すものである。耐凍害性確保のためには、コンクリート中に適切な量・径の気泡を連行することが重要だが、様々な不安定要素により変動する気泡を制御・管理することは極めて難しい。一方、SAPは製造段階で粒度や分散性を制御できる特徴を有し、コンクリート中に分散したSAP粒子は、吸水した水を放散した後に残存空隙として連行気泡の如く振る舞い、耐凍害性向上への寄与が期待される。 今年度は、研究対象であるSAPの物性評価やモルタル試験体を対象とした検討を行った。まず、SAP添加コンクリートの調合設計法を確立するために、SAP自体の物性を把握する必要があったため、SAPの粒度分布測定とともに、純水およびセメント溶解液を用いた吸水試験(ティーバック法)を実施した。その結果、従来の知見に違わず、セメント溶解液中では多価金属イオンの吸水阻害による吸水能の低下を確認した。引き続き詳細な分析を続け、金属イオン濃度の違いによる吸水特性を明らかにすることで、練り混ぜ開始から経時的に変化すると思われる練り混ぜ水のイオン濃度の変化に対応したSAPの吸水性状を把握することが可能と思われる。次に、予備実験として、暫定的に定めたSAPの吸水量をもとに調合したモルタル試験体を対象に凍結融解試験を実施した。比較対象としたNon-AEモルタルと比し、SAPを添加したモルタルは高い凍結融解抵抗性を示したものの、従来のAE剤を添加したモルタルには及ばなかった。しかし、これらの結果は、SAP添加による耐凍害性向上のメカニズムを明らかにすることで、実用レベルの耐凍害性を持つ新たな寒冷地対応型コンクリートを実現できるという、可能性を示唆する結果と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初、交付申請書に記載した補助事業期間中の研究実施計画に基づき、検討を進めていたものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を背景に、感染拡大防止の観点から多数の研究協力者や実験補助員の動員を必要とするコンクリートの共通実験等を見合わせることとなった。そこで、実施可能な範囲で研究を遂行するため、小規模で実施可能と考えられた研究対象(高吸水性高分子)の物性評価やモルタル小試験体を対象とした分析・実験に焦点を絞って検討を進めた。したがって、当初、実施を予定していた「現行の空気連行型(AE)コンクリートを対象とした評価・分析」には着手できていない。現在は、コロナ渦での実験の実施形態を模索しながら、改めて次年度に実験を遂行するための準備を進めている。今年度実施予定であったコンクリートの共通実験は、コンクリートの耐凍害性を確保する上で有効と考えられる気泡組織(気泡径、気泡分布)を特定しようとするものであり、SAPの粒度等を調整・制御するうえでも重要な情報となる。 以上の通り、コロナ渦において困難となった実験補助員の確保や移動規制などによって、当初研究計画の大幅な修正が余儀なくされ、本研究の根幹をなす情報を取得するための重要な実験に未着手という現状にある。当初研究計画および実験方法等の評価や見直し、コロナ渦における対応等を検討しながら研究を遂行してきたが、進捗状況の総合的な評価としては「遅れている」と判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
当初研究計画の評価・改善を随時行いながら研究の遂行に努める。本研究の計画は、【STEP 1.現行の空気連行型コンクリートの評価・分析】【STEP 2.非空気連行型耐凍害性コンクリートの開発】【STEP 3.非空気連行型耐凍害性コンクリートの材料特性の検証】という3つのSTEPに整理できるが、これらの検討で得られた成果を総括し、新たな課題を抽出・フィードバックしてさらに検討を重ねることで、提案しようとする“非空気連行型耐凍害性コンクリート”の基本性能の向上を目指すものである。 次年度は、まず、今年度着手できなかった【STEP 1.現行の空気連行型コンクリートの評価・分析】を実施する。空気量及び気泡組織が異なるように作製した複数のコンクリート試験体を対象に、研究分担者の所属機関や協力研究機関とともに共通試験を実施し、コンクリートの耐凍害性を確保する上で有効な気泡組織に関する検討を進める。 また、今年度実施したSAPの物性評価で確認したセメント溶解液中における吸水能の低下について、金属イオン濃度の異なる試験溶液を用いた吸水試験を実施し、金属イオン濃度毎の吸水特性を明らかにすることで、練り混ぜ開始から経時的に変化すると思われる練り混ぜ水のイオン濃度の変化に対応したSAPの吸水性状の把握を試みる。さらに、今年度モルタル小試験体で実施した凍結融解試験を、コンクリート試験体を用いた実験として再度実施し、コンクリートレベルでのSAPの耐凍害性向上効果を確認する。 これに加えて、SAP混合コンクリートの“合理的な調合設計手法の確立”や“耐凍害性向上メカニズムの解明”に寄与する情報を得るために必要と判断された実験を、随時追加しながら検討を進めていく。 本研究は探索的研究としての性格上、必然的に実験数は多くなるが、複数回にわたる再現実験を実施し、信頼性の高いデータ取得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、当初計画していた複数のコンクリ―ト試験体を用いた大規模共同実験(硬化コンクリートの気泡組織測定)が実施できなかった。そのため、試験体作製に要する「材料費や消耗品費等」の支出がなく、加えて、気泡組織測定実施のために予定していた計測機器のリースも見合わせたため大きな予算を計上していたリース費用「その他の経費」の支出もなくなった。次年度使用が生じた経費の多くは、これらの要因によるものである。さらに、今年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止措置として県外移動制限等もあったため、研究打ち合わせは、基本的にオンラインによるWEB会議で実施され旅費を支出していないという点も要因として挙げられる。 当該年度で未使用となった経費については、当初計画に従い、今年度実施できなかったコンクリート実験における試験体作製費(材料費や加工費、消耗品費)に充当する。また、SAP混合コンクリートの合理的設計手法や耐凍害性向上メカニズムの解明に必要と判断された各種実験に必要となる経費(物品・消耗品費等)に充当する。また、各種実験を並行して実施する必要があるため、関係研究機関への実験依頼や設備借用費、謝金として経費を支出することとなる。
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