研究課題/領域番号 |
20K21031
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
笠井 和彦 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任教授 (10293060)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 超高層建築 / 簡易解析法 / 制振 / 部材構成モデル / 曲げせん断モデル / 高次モード / コア / アウトリガー |
研究実績の概要 |
超高層建物の設計では、柱、梁、壁など1万以上の構造部材と接合部を模擬して「部材構成モデル」を作成するが、地震などの揺れの動的(時刻歴)解析では、データが膨大となり時間がかかり過ぎる。特に設計の概要を決める大切な初期段階では、むしろ各層の部材を集約して迅速に解析ができる「簡易モデル」が重要である。 本研究では、高次までの振動モードを精確に再現する意味で世界初の簡易モデル化法を、架構形式が最も基本的かつ弾性の超高層建物について提案し、その顕著な拡張として、様々な架構形式、架構が弾性・弾塑性の場合、非制振・制振の場合を包括する高精度の簡易モデル化法を構築している。断面保持を仮定する曲げ・せん断モデルの全体変形モードが、複数のスパンからなり、シアラグ効果、コアとラーメン架構の相互干渉などが複雑に影響する部材構成モデルに対し、その全体変形モードを単純な断面保持型に理想化した曲げ・せん断モデルで模擬する方法を開発している。査読付論文、大会論文も順調に発表している。 また、これまでは構造システムとしてラーメン架構、ラーメン架構+コア、ラーメン架構+コア+アウトリガーを考慮していたが、欧米の超高層建物に多い、単純支持架構+コア+アウトリガーのシステムを最近追加した。すなわち、梁が建物への水平力と鉛直力に抵抗する場合(ラーメン架構)と鉛直力のみに抵抗する場合(単純支持架構)における地震応答特性の顕著な違いに着目している。加えて、アウトリガーと柱の間にダンパーを介することもあり、その制振効果も検討している。 。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本手法で用いる曲げ・せん断モデル自体は、従来からのモデルと同様であるが、その設定方法は独自のものである。構造システムとしてラーメン架構、ラーメン架構+コア、ラーメン架構+コア+アウトリガーを考慮し、これらを統一的な手法で全体変形モードを正確に模擬する曲げせん断モデル化手法の構築に成功した。これは世界でも類を見ない包括的で高精度な手法であることを述べておく。達成した項目は以下の2つである。 1つ目は新たな曲げせん断モデル化手法の適用範囲を様々な架構形式に拡張したことである。前述のシステム加え、単純支持架構+コア+アウトリガーのシステムを考慮して、研究の展望を著しく拡張できた。コアと柱をつなぐ境界梁の曲げ剛性を0から大きな値まで変化させた検討により、このシステムの新たな評価法も発見している。 2つ目は、曲げせん断モデルの構築により曲げ・せん断成分の分離手法を確立したことである。上記の様々なシステムに対し共通な手法で曲げ・せん断変形成分に分離できた。これにより、せん断変形成分が支配する耐震架構の損傷や制振架構の減衰効果などを明確に把握できるようになった。曲げ・せん断成分は、建物の1次・2次固有周期および振動モードを精確に再現するよう決定されたものであるため、それらの信頼性は高いと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、上記の単純支持架構+コア+アウトリガーのシステムの曲げ・せん断モデル化について追加検討を行う。この後、他の構造と同様にダンパーを付加した場合を考え、一質点系にまで縮約した制振性能曲線を提案する。 層の曲げ・せん断変形に対する各構面変形の関係を様々な架構形式について明らかにする。その応用として、同じ制振ダンパーをどの構面に配置するかで制振効果が異なる点を、簡易モデルに反映させることで、ダンパーの効果を再現できる曲げせん断モデルを提案する。ダンパーが取付く構面の変形に対するダンパー変形を評価する必要があるが、それには申請者が過去に提案した状態N/R法を用いる。 また、既往の曲げせん断モデル化法では、部材構成モデルの静的弾塑性解析から得る全体変形の塑性成分を、全てせん断部分で模擬するのが典型である。これは、柱は曲げを軸力と同時に受けるため柱端部で塑性化し、よって柱全体の軸変形ひいては架構全体の曲げ挙動の非線形性は著しくないためであると推測できるが、詳しい文献は見当たらない。この点を、本提案手法の弾塑性領域への拡張を行う際に詳細に検討する。 また、米国で進められた非線形モード解析の研究からは、建物の塑性化で1次モードは変化するが2次、3次モードは弾性時とほぼ同等という見解が出ている。申請者の曲げせん断モデル化法は、既往手法と異なり高精度でモードを再現するため、これらについても緻密かつ包括的な検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度はコロナ禍のために出張ができず、旅費を使用できなかったのが主な理由である。この余剰金は、今年度に予定以上の増加が見込まれる人件費の方に主に使う予定である。
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