今年度では,原著論文2件,論文2件,国際会議3件を発表した。今年度得られた主な研究成果は次に示す通りである。前年度では、同じ手術室で1日のうちに異なる2種類の手術、即ち、内視鏡手術と開胸術中に浮遊粒子と微生物の発生と拡散特性について検討し、手術室における気流の適正な計画が重要であることが示唆された。今年度では、CFD(数値流体解析)による検討を行った。解析対象を前年度の実測対象室とした。給気量、制気口などに実測値を用いた。解析方法は天井にあるHEPAフィルタ付きの吹出気流を囲む垂れ壁を設置し、その垂れ壁の高さと断面積を検討した。その結果、高さ1.25mの垂れ壁を設置することが、医療従事者が直面する有害な浮遊微粒子曝露の健康リスクを軽減するのに効果的であることが示唆された。また、気流分布、粒子濃度分布、空気齢を取り入れたCFDの解析結果から以下に示すことが分かった。 天井からの吹き出し気流が無影灯により遮られ,術野に清浄空気を到達させることが阻害されていることがわかった。電気外科器具(electrosurgical tools)による発熱は熱上昇流を生じさせており,医療従事者の代謝上昇流とともに呼吸域の流れ場に影響していた。特に呼吸域では粒子の濃度勾配が大きく,天井吹き出し口の周囲に垂れ壁を設置することにより,吸引する粒子個数が大きく左右されることが示された。空気齢の分布により,垂れ壁がない通常条件では吹き出し気流が室内空気とただちに混合しているのに対し,垂れ壁の設置によって混合を抑制し,術野および呼吸位置高さまで迅速に清浄空気を到達させる効果があることが示された。
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