本研究は、波長別光環境を考慮した建築内の植物の生育評価手法を開発することと、緑化した室内効果が在室者に与える効果を明確化することを目的とする。令和4年度は以下の成果が得られた。 1) 令和3年度に実施したグロースチャンバーを用いた植物の生育評価実験の結果をまとめ、成果が査読付きの国際学会に採択された。オフィスを模擬した3つの照明条件で、3種類の観葉植物を生育した。観葉植物に露光する光合成有効光量子束密度と時間を変えることで、成長速度や形態的特徴、光合成機能が変化することを明らかにした。 2) 令和3年度に実施した被験者実験の結果をまとめ、査読付きの英文ジャーナルに採択された。植物、造花、本を机上に設置した場合に絞った模擬オフィスで、屋内植物が人間の認知機能を向上させる構造を認知作業と視線計測を用いて検討した。植物がある条件では、休憩中の固視数が有意に低く、認知負荷が小さいことを明らかにした。この結果は、作業の休憩時に認知負荷の少ない植物を眺めることで注意力が回復するという仮説と整合していた。 3) 令和2年度に実施した被験者実験の結果をまとめ、日本建築学会環境系論文集に採用された。窓の有無や植物の机上を含む配置が異なる6条件で在室者が持つ空間の印象や知的生産性を分析した。また、視線計測により、作業の休憩時に室内を眺める眼球運動を定量化し、窓や植物を配置した部屋では視覚的な探索量が作業性の心理申告の向上と相関することを明らかにした。 研究期間全体を通し、分光放射照度の数値シミュレーションを応用して、植物の光合成と相関が高い光合成有効光量子束密度を建築の3次元モデルを用いて計算する手法を開発した。さらに、グロースチャンバーを用いた実験により、観葉植物の生育に必要な露光量の条件を明らかにした。また、屋内緑化空間が、人間の認知機能や心理に与える影響を2つの被験者実験から定量的に示した。
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