研究課題/領域番号 |
20K21043
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
亀田 正治 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70262243)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 航空宇宙工学 / 航空宇宙流体力学 / 流体工学 |
研究実績の概要 |
航空機の離着陸時に機体から発生する空力音の低減を目的として,流れ情報の高効率縮約技術に基づく騒音アクティブ制御法の開発を進めた.対象とする流れ場を,騒音発生の物理機構が解明されているTrailing edge noise(TEノイズ)に定めた.補助対象期間全体を3つの段階,(1)流体数値シミュレーション(CFD)を用いたモード解析によるTEノイズ入出力モードの特定と高効率抑制法の開発,(2)低負荷機械学習に基づく流れ場逆推定・制御法の開発,(3)風洞実験による実証試験,に分けて研究する計画を立てた. 上記のうち,本年度は,(1)のテーマ,すなわち,モード解析によるTEノイズ入出力モードの特定と高効率抑制法の開発を進めた.まず,オープンソースソフト(OpenFOAM)を組み込んだワークステーション(本研究費にて調達)を用いて,既往の解析実績が豊富に存在する代表的な翼形(NACA0012)周りのTEノイズに関するCFD計算を実施した.計算結果に対して,流れの支配方程式の性質を取り入れたモード解析法(レゾルベント解析)により計算結果を解析し,TEノイズを生み出す組織構造と,ノイズのモニタリングや増幅低減に効果のある翼表面位置を特定した.現在,海外研究協力者(Prof. Kunihiko Taira (UCLA))の助言を得つつ,本成果の雑誌論文執筆を進めている. 続いて,モード解析結果に基づき,高効率な制御を実現する吹き出し制御法をCFD計算により検討した.制御効率が高いと見込まれる入力位置にて騒音と同じ周波数の吹き出し・吸い込み流れを与えることで,非常に小さい吹き出し速度でもTEノイズが抑制されることを示した.本成果は,2021年7月に開催される学会にて発表する予定である. 最後に,(3)の準備として,制御デバイスの候補品を手に入れ,適用可能性を調べた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間全体の計画として,(1)流体力学基礎方程式の性質を考慮できるモード解析(レゾルベント解析)を用いて騒音を支配する翼周り流れ組織構造を特定し,その構造を少ないエネルギでキャンセルするためのの制御法を開発すること,(2)計算負荷の小さい機械学習の手法との組み合わせにより実機で想定される揺らぎに対応する制御性を高めること,(3)風洞実験を通じて提案する制御法の有効性を実証すること.を挙げている. このうち,前述の通り,(1)については順調に研究実績を上げており,(3)についても実証に必要な制御デバイスの選定を進めている.(2)についても,計算負荷が軽く,因果関係の説明が可能な浅層ニューラルネットワーク(SNN)による小数点データによる流れ場再構成の基礎検討を進めている. 以上のことから,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き,以下の3つに分けて研究を推進する. (1)モード解析によるTEノイズ入出力モードの特定と高効率抑制法の開発 本年度に引き続き,TEノイズのモニタリングや増幅低減に効果のある翼表面位置における高効率な制御を実現するデバイスの駆動法をCFD計算により調べる.国際共著の学術雑誌論文を執筆する. (2)低負荷機械学習に基づく流れ場逆推定法の開発 (1)で得たモニタリング最適位置に配置した少数の表面圧力変動のデータから流れ場の構造の逆推定を行うための,学習や逆推定の負荷が少ない2層程度の隠れ層を持つ浅層ニューラルネットワーク(SNN)を構築する.CFD計算結果を用いてSNNの学習最適化を行う.翼形状,気流条件,アクチュエータ駆動条件に揺らぎを与えたSNNの学習を進め,センサ出力に基づく制御デバイス駆動のロバスト性を確保する. (3)風洞実験による実証試験 研究協力者として中北和之氏(宇宙航空研究開発機構)を新たに加え,(1),(2)の結果に基づくTEノイズの風洞実験を行う.実験には,宇宙航空研究開発機構(調布)が所有する小型低乱風洞を用い,少数の圧力センサを埋め込んだNACA 0012翼模型周りの流れを調べる.制御デバイスとして,TEノイズの周波数(1 kHz)に適応可能な高速変動を与えることが可能な高繰り返しパルスレーザを用いることとし,感圧塗料(PSP)による表面圧力場計測の結果を通じて,圧力センサ出力に基づく流れ場逆推定の有効性とリアルタイム制御可能性を実証する. (2),(3)の成果についても国内外の学会にて発表し,雑誌論文化を図る.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実施計画の中で大きな費用が必要な風洞実験用模型製作のタイミングが2021年度になったことと,コロナ禍のため成果発表のための学会参加を2021年度主体に改めたことが理由である. 2021年度は,上述の模型製作費,成果発表旅費に加え,データ処理用計算機の購入費,雑誌論文の英文校閲料,国際学会の参加登録費等に本研究費を使用することを計画している.
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