研究課題
2020年度は、宮古島与那原断層を対象に地質調査と断層試料採取を実施した。地質調査の結果、断層帯の厚さは約50メートルで、ほぼ水平な琉球石灰岩がほぼ垂直なスリップゾーンと割れ目によりそれぞれ変位、切断されていることが明らかとなった。スリップゾーンにおける運動学的解析を行なったところ、与那原断層は北東ー南西方向の引張場で北東落ちの正断層として形成されたことが明らかとなった。採取した試料を断層スリップ方向と平行、スリップゾーンと直交する方向に切断し、肉眼、偏光顕微鏡下で観察を行なった。その結果、スリップゾーンは厚さ1~3 ミリで、極細粒カルサイトマトリックス中に石灰岩の破砕岩片が取り込まれていることが明らかとなった。電界放出形分析走査電子顕微鏡システムを用いて、スリップゾーンの微細構造観察を行なったところ、極細粒カルサイト粒子の形態定向配列と気泡様の構造が見出された。更に、極細粒カルサイトマトリックスを対象に後方散乱電子回折を検討したところ、マトリックスを構成する極細粒カルサイトは正断層運動と調和的な強い結晶方位定向配列と形態定向配列を示し、ミスオリエンテーション角度が10度以上であった。今回見出された極細粒カルサイト粒子の結晶方位定向配列と形態定向配列と同様のものが、カルサイトガウジの高速摩擦実験や大理石を用いた500~600℃下でのねじり実験で報告されている。また、スリップゾーンから見出された気泡様の構造は、高速滑り時にカルサイトが700~900℃で熱分解した際に形成されることが報告されている。これらのことに加え、極細粒カルサイトのミスオリエンテーション角度が10度以上であることを考慮すると、宮古島与那原断層では正断層運動時に温度が上昇し、カルサイトが動的再結晶した可能性が高い。このことから、与那原断層では地震性滑りにより摩擦熱が発生していた可能性が初めて示された。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナの影響により研究を当初の予定通り進めることが出来なかったが、初めに取りかかった宮古島与那原断層からは、画期的である可能性のある研究成果が得られた。研究実績の概要で述べたとおり、温度上昇によるカルサイトの動的再結晶を示唆する証拠が後方散乱電子回折により見出された。これは、我々の知る限り世界で最も浅い深度(ほぼ表層)の断層から見出されたものである。琉球石灰岩を変位させる断層から摩擦熱による温度上昇を示唆する地質学的証拠が見つかり、また運動学的解析結果から北東ー南西方向の引張場で北東落ちの正断層運動であることが明らかとなったことにより、表層付近での活断層地震性滑りによる災害リスク評価・防災対策に資する地質学的証拠を提示することが可能となりつつある。
2020年度に宮古島与那原断層で得られた研究成果を論文としてまとめ、国際学術誌に投稿する。論文が査読を経て受理され、公表される際にプレスリリースを行い、地質学的証拠(温度上昇による動的再結晶に伴う結晶方位定向配列形成)に基づいた宮古島における活断層地震性滑りの報告とそれを踏まえた上での、災害リスク評価・防災対策のための地質学的情報提供を行う。沖縄本島中南部、喜界島、波照間島に分布する琉球石灰岩を切断し変位させている断層を対象に地質調査を行い、断層試料を採取する。採取した試料を用いて、偏光顕微鏡、電界放出形分析走査電子顕微鏡システム、後方散乱電子回折による観察・分析・解析を実施し、摩擦熱による温度上昇に伴う結晶塑性変形の影響を調べる。これにより沖縄本島中南部、喜界島、波照間島における活断層地震性滑り評価を行う。
新型コロナの影響により、予定していた地質調査・断層試料採取が宮古島でしか行えず、沖縄本島中南部、喜界島、波照間島で実施出来なかったため、次年度使用額が発生した。2021年度にこれらの島において地質調査・断層試料採取を実施し、採取した試料を用いて偏光顕微鏡、電界放出形分析走査電子顕微鏡システムによる微細構造観察、分析を行う。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件)
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