研究課題/領域番号 |
20K21054
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
中村 文則 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (70707786)
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研究分担者 |
下村 匠 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (40242002)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 津波 / 高潮 / 塩害 / 飛来塩分 / 社会基盤構造物 / 維持管理 |
研究実績の概要 |
2021(令和3)年度は、前年度に引き続き、コンクリート構造物の危険度総合評価システムを開発するために、大規模な災害とそれに応じた外力作用を予測する数値モデルを構築し、その予測結果の妥当性の検証を行った。さらに、構造物に作用する自然環境条件とコンクリート内部の劣化促進物質の予測モデルの高精度化のための改良を行った。 大規模な災害の予測では、高潮による災害を汎用的に予測するための数値モデルの構築を行った。予測モデルの妥当性の検証は、海外のハリケーンによる災害事例を再現した数値解析を実施し、観測結果との比較を行った。その結果、予測モデルで高潮現象(潮位偏差、波浪、気圧、風速等)の傾向を再現できることが確認された。さらに、高潮現象によって作用する構造物への災害外力の予測モデルの構築を行った。 コンクリート構造物の劣化過程の予測モデルでは、外部・表面境界・内部を統合した予測モデルの構築とその検証データを取得するための模型実験を実施した。実験では、自然環境作用の影響を考慮できる施設を利用して、コンクリート構造物への環境作用と表面部の劣化促進物質量の把握を行った。さらに、沿岸部に設置されていた実構造物の橋桁の一部を大学の実験室に運搬し、外部・表面、内部(浸透塩化物イオン量)に関する測定を実施した。その結果、構造物外部の環境作用とコンクリート表面の劣化促進物質量の関係を把握できたとともに、それを予測シミュレーションで再現できることが明らかになった。 これらの実験および予測解析の研究成果を整理し、査読付論文・招待論文(コンクリート工学年次論文集、コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集)として、投稿・発表(一部投稿中)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020~2022(令和2~4)年度の期間に、社会基盤構造物の危険度総合評価システムの開発のために、自然環境作用と構造物に作用する劣化促進物質(主に水分と塩分)の予測、大規模な災害(津波・高潮)の予測、構造物に作用する外力の予測を行い、それらを統合した予測解析とその検証を実施する予定である。 2021(令和3)年度は、前年度に収集した過去の津波・高潮事例の資料を利用して、予測解析の検証データとなる高潮発生時の気象・波浪条件および被害が報告されている橋梁について整理を行った。その結果を参考に、沿岸部に設置されたコンクリート構造物に作用する大規模な高潮現象の予測とそれに伴う災害外力(流体力)を予測する数値モデルの構築を行った。高潮現象の予測モデルは、海岸工学分野で利用されている領域気象モデルWRF、波浪推算モデルSWAN、海洋海流モデルPOMを統合したものである。橋梁に作用する災害外力(波力・揚力)は、VOF法による予測モデルである。対象とした過去の台風(ハリケーン)は、2005年にアメリカで発生したハリケーンカトリーナ等である。その結果、台風による潮位偏差および波浪、風況などはおおむね再現できることが示された。しかしながら、沿岸部の設置された橋梁に作用する高潮発生時の波の波圧については、一部で十分に検証がてきていない点があり、2022年度に再度検証を行う予定である。 沿岸部に設置されている橋梁の劣化過程の予測モデルの構築では、前年度に引き続き、構造物の外部環境作用とコンクリート表面・内部の劣化促進物質の移動過程を統合したモデルの構築・改良を実施した。その結果、構築した予測モデルにより、構造物外部の環境作用と表面の劣化促進物質量について予測できることが確認された。 以上より、当初計画より若干遅れている部分が見られるため、現在までの研究の進捗状況はやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
2022(令和4)年度は、前年度に引き続き、大規模な津波・高潮による構造物への災害外力作用の予測モデルの構築、環境作用によるコンクリート構造物の劣化過程の予測モデルの高精度化を進める計画である。さらに、自然環境条件に応じた構造物の劣化現象と災害時の外力作用の予測モデルを統合し、それらを総合的に考慮して予測解析が可能な危険度総合評価システムの開発を行う予定である。 2022年度前半には、台風による波浪作用とそれに応じて橋桁に作用する波圧の予測解析とその妥当性の検証を実施する。津波・高潮の予測モデルの構築とその予測結果の検証は、これまでの研究でおおむね終了しているため、橋桁に作用する津波・高潮による波圧・揚力の予測解析とその結果の検証を中心に研究を進める予定である。予測モデルの検証には、過去の災害外力よって被災した橋桁の調査データおよび既往研究の模型実験の結果を利用する予定である。 さらに、構造物の劣化現象の予測では、構築してきた予測モデルを沿岸部に設置されている実構造物(橋梁)に適用し、予測結果の妥当性の検証を行う。検証のための調査データは、前年度に実施した実構造物の外部・内部調査の結果を使用する予定である。 2022年度後半には、これまで構築してきた災害時の外力と自然環境条件に応じた構造物の劣化現象を統合し、それらを総合的に考慮できる危険度総合評価システムの開発を行う。構造物の劣化状況を高精度で予測でき、そこに大規模な津波・高潮の災害外力が作用した場合の危険度を評価する予定である。 2022(令和4)年度は、最終年度であるため、構築してきた予測モデルと実験結果を整理するとともに、これまでの研究成果の取りまとめを行う。さらに、本研究課題において、新たに明らかになった課題の取りまとめを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021(令和3)年度は、大規模な数値解析を実施するための環境を整備する予定であったが、前年度に引き続き、世界的に蔓延したコロナウィルスの関係で数値解析用パソコンの部品の一部が品薄となり、パソコンおよびその部品の購入とそこに導入する予定であった解析等のソフトの購入の一部を次年度に変更することにした。当初予定していた数値解析は、2021年度に新規で購入したパソコンと予備で設置していたパソコンを使用して進めた。ただし、一部の予測解析(構造物に作用する災害外力の予測)において、パソコンの台数が不足している現状であったることから、2022(令和4)年度前半には、大規模な数値解析を実施するためのパソコンとそこに導入する解析ソフトの一式を購入し、研究を進める計画である。 また、2021(令和2)年度は、前年度に引き続き、コロナウィルスによる影響があり、学会での研究成果の発表および資料収集のための現地調査の一部が困難であったため、その旅費等の一部を次年度に変更することにした。 以上のように研究計画を一部の変更したことにより、次年度に使用額が生じることになった。これらが、最終的な研究成果に及ぼす影響は小さく、当初の予定通りに研究の実施が可能である。
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