研究課題/領域番号 |
20K21067
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 通人 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (10596547)
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研究分担者 |
野本 拓也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (60804200)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 反強磁性 |
研究実績の概要 |
初年度は主に第一原理計算による磁性体の磁気構造評価や複雑な磁気秩序形成下における物性発現機構の研究に取り組み、第一原理計算に基づく磁気構造の解析理論の拡張と具体的な物質の研究を対象とした輸送現象の研究に取り組んだ。 与えられた結晶に対して異なる磁気構造の秩序パラメータと物性を第一原理計算から系統的に評価するための研究基盤として、第一原理計算とクラスター多極子法による磁気構造生成手法を組み合わせた系統的な磁気構造の安定性評価システムを構築し、磁気構造データベース上の実験から同定された磁気構造と、上記理論システムから得られる安定磁気構造の整合性について系統的な評価を実施した。これにより遷移金属をはじめとする多くの磁性体について理論的に予測された安定磁気構造と実験磁気構造の整合性を確認しており(Huebsch et al., Phys. Rev. X 11, 011031 (2021))、今後、磁気異方性なども考慮したより詳細な磁気構造の予測に向けた理論解析を進めるための知見が得られている。また、磁性体に特有の現象である異常ホール効果や異常ネルンスト効果の発現機構の研究に取り組み、その微視的機構を調べている(Yanagi et al., arXiv:2011.14567(2020) )。 これらの研究成果から得られた第一原理計算による磁性体の全エネルギー評価と輸送現象の研究に関する知見は、第一原理計算による交換相互作用の計算、及びスピン模型の構築、それらを用いた磁気ドメイン形成と輸送現象の影響を調べる基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一原理計算とクラスター多極子法を融合させた磁気構造予測システムを構築し、反強磁性体の系統的な研究を通して反強磁性体の磁気構造予測に関するベンチマークテストを実施した(Huebsch et al., Phys. Rev. X 11, 011031 (2021))。これにより、クラスター多極子法による磁気構造生成と第一原理計算による全エネルギー評価を組み合わせた安定性評価から、遷移金属磁性体の磁気構造が効率的に予測できることを確認している。またCo3Sn2S2やMnCuAsといった特異なバンド構造を持つことで知られる磁性体の輸送現象を第一原理計算によって研究し、異常ホール効果や異常ネルンスト効果、スピンホール効果といった輸送現象とバンド構造の関わりを明らかにしている。これらの研究を通して得られた第一原理計算による全エネルギーと輸送現象に対する予測精度に関する知見は、第一原理計算によるスピン模型構築、及び磁気ドメイン形成と輸送現象の関係を調べる上での基盤となる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で第一原理計算による反強磁性体の系統的な研究を実施し、第一原理計算による基本近似から多くの磁性体の磁気構造が安定解として得られることを確認した。これら第一原理計算による反強磁性体の安定性や物性を評価する理論研究の知見をもとに、今後は第一原理計算による交換相互作用の評価、及び、交換相互作用の情報をもとにスピン模型を導出する理論システムの構築に取り組む。第一原理計算から求まるスピン模型をもとに、秩序パラメータが物性や磁気ドメインの形成に与える影響を調べる。また、外部磁場による物性制御に関する理論研究に取り組み、第一原理計算とスピン模型を用いた物性の外部磁場の影響を調べる研究に取り組む。
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