研究課題/領域番号 |
20K21069
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
今野 豊彦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (90260447)
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研究分担者 |
白石 貴久 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (50758399)
竹中 佳生 東北大学, 金属材料研究所, 助手 (80650580)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 強誘電体 / 水熱合成法 / ペロブスカイト構造 |
研究実績の概要 |
酸化物強誘電体材料は、エコーやソナーといった超音波デバイス、記憶媒体であるメモリデバイス、環境振動や熱を利用したエナジーハーベスターといった様々な分野に応用されており、我々の生活に不可欠な材料である。実デバイスに応用されている強誘電体材料の多くは、Pb(Zr.Ti)O3に代表されるような固溶体である。それは、特定の固溶領域において、異なる結晶構造が共存するMPB(Morpho Tropic Phase Boundary)領域が発現し、その領域において優れた誘電性・強誘電性を示すためである。 本研究は、この目的を達成するために高温高圧下の水溶液での反応である水熱法を積極的に活用することにより、形態だけではなく、内部構造が制御された酸化物微粒子を作成し、従来成し得なかった電気特性や触媒活性を有する機能性微粒子の合成方法を確立しようとするものである。 初年度は強誘電特性を呈する (K,Na)NbNbO3基粉末の水熱合成を試みた。具体的にはKOH・NaOH 混合水溶液中に Nb2O5 および Ta2O5 の金属酸化物粉末を溶解させ、(K, Na)(Nb,Ta)O3型の酸化物微粒子の析出と成長を試みた。この系ではアルカリ金属としての KとNaが分離し、また Bサイトを占有する Nbと Ta とが分離することで、粒子中に相境界が生成することが予想される。 合成という観点からは Ta2O5/Nb2O5 の比を系統的に変化させることで粒径が数ミクロンの酸化物粒子を作製することに成功した。構造解析という観点からこれらの粒子をエックス線回折、走査電子顕微鏡ならびに透過電子顕微鏡を用いた観察を行い、複合酸化物の成長過程における変化に関する知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は(1)ペロブスカイト型複合酸化物粉末の水熱法による合成、(2)構造解析、(3)生成過程の熱力学的・速度論的解明、(4)シミュレーションと合成法へのフィードバックという4つの要素から構成されている。初年度において基本的な合成プロセスの確立に成功し、エックス線回折ならびに走査型・透過型電子顕微鏡による構造解析技術の適用も予定通り実施できた。現在、速度論的な粉末成長因子の抽出という段階に入っており、最初の論文も受理されている。すなわち、当初の計画に従って順調に研究は進んでいると判断できる。以下、具体的な内容を示す。 申請者らが用いているオートクレープ内の反応は約200℃で起こるが、反応速度、中間生成物の有無、その間の構造変化などに関する知見はこれまで報告されていない。今回、 Ta2O5/Nb2O5 の比を系統的に変化させた結果、反応速度はベースとなるアルカリ溶液だけでなく、ペロブスカイト構造においてBサイトを占有する金属元素の種類により、顕著に異なることを実験的に見出すことができた。 すなわち、投入すNb酸化物は反応性が高くアルカリ金属種に関わらず、ペロブスカイト構造が反応開始後5時間程度で生成するのに対し、Ta酸化物の場合、アルカリ金属としてNaを用いた場合、ペロブスカイトの生成自体は早いがその比率は70%程度にとどまり、他の酸化物が安定して存在すること、さらにKを用いた場合、反応開始から20時間程度にわたり中間体が生成し、その後にペロブスカイト構造が安定化することを実験的に見出した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において基本的なプロセスが確立し、また反応のアルカリ水溶液ならびに金属酸化物の依存性を定性的に明らかにすることができたので、今後は水熱プロセスという観点からは、水溶液の温度、pH、構成元素の濃度を制御するだけではなく、溶液の流れ、オートクレープの回転等を積極的に利用した開放系における水熱合成を試みる。ここで得られた知見をフィードバックすることにより、当初予定していた結晶構造の異なった二つの相が内在する複合酸化物粉末の合成が可能となるものと予想している。 一方、構造解析という観点からは初年度は走査電子顕微鏡を用いた粉末形態の観察による成長様式の同定ならびにエックス線回折による結晶構造の同定を行ってきたが、これだけでは単一の粉末状粒子の内部構造に関する知見としては不十分であり、最終的に目的とする異相界面の存在による電気的特性の誘発という目的を達成することはできない。 そこで次年度以降はサブミクロンの領域における構造を走査型透過電子顕微鏡等を用いて解明し、単一粒子内に生成する複合構造の本質を明らかにする。このことにより、粒子の成長とともに組成と結晶構造が変調した内部構造が出現する状況が明らかになり、最終的に薄膜と匹敵する応答性の高い酸化物粒子の合成プロセスを確立することを目的とする。 以上の水熱合成プロセスによる複合粒子の作成がある程度制御可能となった時点で、強誘電体特性に代表される電気的な測定を開始する。このことにより、単に構造という観点からではなく、所望の特性を具備する複合酸化物粒子のモデル構造に関する知見を得ることを最終的な到達点としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
水熱合成法によるペロブスカイト型複合粉末のプロセッシングについては消耗品ならびに小型備品(複合型真空ポンプ)の導入など、予定どおり執行している。 差額が発生した主なる要因は構造解析で予定していた収差補正型透過電子顕微鏡を中心とする共同利用設備の使用に対して、感染症防止の観点から電顕センターの入室に対して制限がかけられマシンタイムの確保が困難となったためである。しかし2021年に入り、リモートでの電顕操作が可能となり、構造解析を集中して実施可能となった。収束イオンビーム加工装置(FIB)による試料作製は一試料あたり5万円であり、今年度はアルカリ金属溶液濃度ならびに遷移金属酸化物というパラメータを変えるだけでなく、合成に要する時間を新たなパラメータとすることにより、水熱合成のキネティクスを解明することとしている。そのため20試料の観察を予定しており、繰越残額の80%は上記の電子顕微鏡の使用と合わせて構造解析のために用い、残りを水熱合成による試料作製に充当する。
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