研究課題
今年度は、歪んだ2次元構造を取る層状SnSeと、高対称な岩塩型構造を取るPbSeの固溶体(Pb1-xSnx)Seバルク焼結体を合成し、温度に対する結晶構造と電子輸送特性の変化を調べた。(Pb1-xSnx)Seバルク試料は、高温固相反応と急冷処理を組み合わせた非平衡合成プロセスにより作製した。まず、PbSeとSnSe出発原料を目的組成に合わせて混合し、放電プラズマ焼結法(SPS)を利用して密度99%以上のペレット状に成型した。その後、Ar雰囲気下でシリカガラス中に封管し、加熱処理して急冷することで、高温相の(Pb1-xSnx)Se固溶体相を室温で安定化させた。熱処理温度を最適化させることで、(Pb1-xSnx)Se固溶体バルクを作製することに成功した。(Pb1-xSnx)Seバルク試料の室温のX線回折測定から、x = 0.6以上ではSnSe層状構造に由来する回折ピークのみが見られ、x = 0.4以下では、岩塩型構造に帰属される回折ピークのみが見られた。x = 0.5では、岩塩型相と層状構造相の混合体であった。(Pb0.5Sn0.5)Se固溶体のX線回折の温度変化から、室温から低温に向けて岩塩型構造から層状構造へ変化し、可逆的に構造転移することが分かった。このことから、非平衡合成法によって、広い組成範囲で(Pb1-xSnx)Se固溶体を合成でき、x = 0.5で2次元-3次元構造転移を誘起でき、ナノ周期構造をスイッチできることを明らかにした。(Pb1-xSnx)Se固溶体の電気抵抗率の温度変化を系統的に調べたところ、x=0.2以下では金属的な温度依存性を示し、x = 0.6以上では半導体的な温度依存性を示した。x = 0.4と0.5では可逆的な金属-絶縁体転移が見られ、固溶体組成によって相転移温度を制御できた。x=0.5試料では構造転移によって約5桁の電気抵抗変調を示すことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、高密度(Pb1-xSnx)Seバルク焼結体を合成することに成功し、ナノ周期構造を温度でスイッチすることに成功した。2年目には熱伝導率評価とフォノン輸送解析を行う予定であり、計画通りに研究を進めることができている。
今年度に実現した(Pb1-xSnx)Seバルク焼結体について、熱伝導率の温度変化を系統的に評価する。ホール効果測定も行い、熱伝導率に対する電子とフォノンの寄与を別けて、フォノン散乱の機構を解明する。また、第一原理非調和フォノン計算により、(Pb1-xSnx)Seの層状・岩塩型構造のフォノン輸送解析を行う。実験と計算によって得た熱伝導率を比較し、フォノン周波数と平均自由行程・群速度・緩和時間の相関を解析することで、ナノ周期構造における熱輸送を明らかにする。
コロナ禍のため、予定していた国内会議や国際会議へ出張できなかったことと、放射光施設への出張も制限されたことによって、旅費に残額が生じた。来年度は、オンラインの国内・国際会議で積極的に成果発表する予定である。また、残額は実験消耗品と共通設備利用料に補填し、研究の実施スピードを加速させる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
Science Adv.
巻: 7 ページ: eabf2725
10.1126/sciadv.abf2725
Adv. Funct. Mater.
巻: 31 ページ: 2008092
10.1002/adfm.202008092
https://researchmap.jp/katase/