本研究では、物質の表面モデルを対象に、系統的第一原理計算を行い、それにより多数の物質の真空を基準としたバンド端位置、すなわちイオン化ポテンシャル及び電気陰性度を計算する。さらに、得られたデータを対象に機械学習を行うことで、バンド端位置を決定する因子の解明や高速に予測するための回帰機の開発を目的としている。 本研究で鍵となるのが、結晶構造を入力として適切な表面モデルを自動生成するプログラムの作成と、多数の第一原理計算を処理するための自動計算手法の開発である。本年度は、前者に関してmatsurfのプログラム開発を行なった。これにより、各原子層が静電的に中性となる、いわゆるTasker条件においてタイプ1となるモデルの自動的かつ系統的な作成が可能となった。また、matsurfを昨年度に開発した自動計算プログラムと組み合わせ、さらに別のプロジェクトで構築した酸化物データベースを対象に、百程度の表面計算を行い、それらのバンド端位置のデータベース構築を行なった。この結果、同じ酸化物においても、イオン化ポテンシャル、すなわち価電子帯上端の位置に数eV以上の違いが確認できた。このことは、従来考えられていた以上に材料の適切な選択によりバンド端位置を大きく変調できる可能性を示唆している。
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