我々は、結晶構造内へのイオンの電気化学的な挿入・脱離により、断熱状態と高熱伝導状態を可逆的に変化させることが可能な「熱スイッチ材料」の開発を試みている。これまでの研究では、アモルファスWO3薄膜への水素挿入(HxWO3)では、x = 0 ~ 0.32の範囲ではH挿入により熱伝導率が減少するが、x = 0.32において一旦大きく上昇し、x > 0.32では再度H挿入に伴い熱伝導率が減少する様子が確認された。このような複雑な変化が起きる原因は、H挿入に伴う結晶の局所的な構造変化であることが予想される。そこで本研究では、結晶性WO3を用い、H挿入に伴う構造変化と熱伝導率の関係を調べ、熱伝導率変化のメカニズム解明を試みた。 RFマグネトロンスパッタリング法により、ITOをコートしたガラス基板上にアモルファスWO3薄膜を成膜した。その後、大気中において400℃のアニール処理を行い、結晶化WO3薄膜を得た。WO3薄膜を作用電極とし、参照極にカロメル電極、対極にPt、電解液に0.5 M H2SO4溶液を用い、0.05 mA/cm2の定電流でWO3への水素挿入を行なった。薄膜の結晶構造決定にはXRDを、薄膜の結合状態の評価はラマン分光法とXPSを、熱伝導率測定には光交流法をそれぞれ用いた。 XRDを用いた構造解析より、水素挿入に伴い、HxWO3はmonoclinic→orthorhombic→tetragonal B→tetragonal A→cubicの順に変化していることが明らかとなった。
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