研究実績の概要 |
エネルギー自給率の低い我が国において持続可能な社会を実現するためには,エネルギーの有効利用は喫緊の課題である.しかし現在,日本の一次エネルギーの約6割が熱として捨てられており,その大部分は100-250度の低温産業廃熱や自動車排熱である.化学蓄熱技術はこの低品位熱エネルギーの有効利用を可能にする画期的な技術として注目されているが,社会実装に適した反応系は見出されておらず現時点で実用化の目途は立っていない.そこで本研究では,多数の無機化合物が収録されている無機結晶構造データベース(ICSD)を理論計算科学とデータ科学の融合手法で高速スクリーニングすることにより,新たな反応系の網羅的かつ効率的な探索に挑戦する. 2020年度,ICSDのスクリーニングにより,化学蓄熱の有望系として報告のある硫酸ランタンより蓄熱密度が高いと予想される系を14件見出した.2021年度は,その中でリン酸アルミニウム水和物に着目し,その試料合成ならびに脱水・水和反応挙動の調査を試みた.その結果,1.5水和物は単相が得られ,可逆的な脱水水和反応と高い蓄熱性能を両立する系であることを確認できた.2022年度は,ケイ酸銅水和物に着目し,その脱水・水和挙動をTG測定により調査した.その結果,昇温過程ではホスト構造を維持したまま脱水反応が進行したにもかかわらず,降温過程で水和反応はほとんど進行せず,可逆的な脱水・水和挙動が見られなかった.この不可逆な挙動は,高水蒸気分圧下に置いた場合や金属塩(LiCl, LiF)を添加した場合にも改善しなかった.この結果を検討するために,試料最表面の元素分析および第一原理計算による脱水・水和反応の平衡温度推定を行った.その結果,再水和を阻害する要因として,”試料最表面に生成したSiO2がH2O分子の挿入を阻害”,”結晶内部でのH2O拡散が極めて遅い”という可能性が示唆された.
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