耐脆性破壊特性に優れた高強度金属材料開発のための材料設計概念を提案していくためには,原子スケール・ミクロスケール (ナノ・マイクロメートルオーダー) の破壊挙動からマクロスケール (ミリメートルオーダー以上) での破壊特性を予測する理論を構築していく必要がある.本研究では高強度鋼において生じる脆性破壊を研究対象とし,クラック進展抵抗曲線解析によりマクロ破壊特性を評価すると伴に,走査型電子顕微鏡像を用いたデジタル画像相関法により,各破壊素過程におけるクラック近傍領域のミクロスケールでの塑性変形挙動を調べ,得られた結果を基に,各破壊素過程における原子スケール破壊特性/ミクロスケールでの塑性変形挙動/マクロ破壊特性の定量相関の解明を目指すものである.
本年度は,厚さ1.5mm程度の薄板試験片を用いたクラック進展抵抗曲線解析手法および走査型電子顕微鏡像を用いたデジタル画像相関法によってミクロスケールでの塑性変形挙動を調べる手法を確立した.そして,マルテンサイト単相組織におけるミクロスケール塑性変形挙動を画像相関法によって解析した結果,塑性変形は不均一であり,ブロック,パケット,旧オーステナイト粒といったマルテンサイトミクロ組織に大きく依存することが明らかとなった.また塑性ひずみの比較的大きな領域にクラックが形成することを見出した.更にマルテンサイト・フェライト2相組織に対しても同様にミクロスケールでの塑性変形挙動をデジタル画像相関法によって調べ,マルテンサイト・フェライト界面近傍に塑性変形が集中すること,そしてその塑性変形が集中した領域にクラックが形成されることを明らかにした.
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