硬質結晶性材料として知られている金属間化合物材料やセラミックス材料には各種構造材料の強化相としての応用が期待されているものが多数含まれているが,それらの本質的な力学特性に関しては様々な実験・解析の困難さのため実験的証拠が圧倒的に欠如しており,実験結果に基づいた塑性変形機構の理論的検討は十分にはなされていないのが現状であった.本研究では複雑結晶構造を有する硬質結晶性材料の塑性変形機構,力学特性を包括的に記述する新しい理論体系の構築を目指して,セメンタイト相やFe-Cr系σ相を中心とする各種硬質結晶性材料における特異な転位の運動による室温塑性変形能の支配因子の解明を目的とした基礎研究を行った.令和3年度は,昨年度までにZonal型転位の活動を確認したFe-Cr系σ相ならびにSynchroshear型転位の運動の可能性が示唆されたセメンタイト相については,まだ十分な転位組織と転位芯構造の解析ができていないすべり系についての実験的解析を進めた.またFe-Cr系σ相と同様のカゴメ型原子配列構造を有するα-Mnや,遷移金属シリサイドなどの硬質材料に研究対象を拡大し,単結晶マイクロピラー圧縮試験法による活動すべり系とその臨界分解せん断応力の同定,透過電子顕微鏡法による転位組織の解析を行った.さらに実験的に活動を確認したFe-Cr系σ相,セメンタイト相,α-Mn,各種遷移金属シリサイド中の各種すべり系について,第一原理DFT計算による一般化積層欠陥エネルギー(Generalized Stacking Fault Energy(GSFE))の計算を系統的に行い,得られた結果と実験結果の比較を基にして変形機構に関する詳細な考察を行った.
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