研究課題/領域番号 |
20K21086
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
神吉 輝夫 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (40448014)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | ひずみセンサー / フレキシブル / 二酸化バナジウム |
研究実績の概要 |
遷移金属酸化物は、軌道・電子・スピンが強く相関し超伝導、金属-絶縁体相転移、超巨大磁気抵抗効果など多彩な物性を発現する魅力的な物質である。酸化物結晶に歪を加えると原子間距離が変わり、電子軌道間の重なり状態変化と強い電子間相互作用が相俟って巨大な抵抗変調を引き起こすため、強相関電子系材料の物性解明に良く用いられる手法であり、長年世界中で活発に研究され続けている。本研究では、従来手法とは全く異なるフレキシブルシート上の単結晶酸化物薄膜転写技術を活かして、高次歪制御による巨大抵抗のダイナミック変調デモンストレーション、その機構解明、及びマイクロストレインゲージとしての応用展開までを視野に入れ研究を行う。酸化物ストレインエンジニアリングの学理構築の一助を担い、広範な応用展開を促すことが目的である。 2020年度での研究実績では、 (1)引っ張り曲げひずみ量に対して、系統的に抵抗変化の詳細を調べた。VO2単結晶の[110]方向では、ひずみ量に対し抵抗が減少し、[001]方向では抵抗が増大した。この結果は、曲げる方向を結晶方位に対して変化させることができる。この応用では、多様な方向からひずみがかかった時に一つの単結晶薄膜によりどの方向からひずみがかかったのかを解析することによって検出できることを示唆し、機能性に富んだひずみゲージ創出の可能性を見出した。 (2)イタリアジェノバ大学・CNRとの国際共同研究により、Comsolを用いた計算シミュレーションにより曲げひずみに対しひずみ量を正確に計算した。この知見によりさらに正確なひずみゲージ率を算出する解析方法が整った。 (3)また、[001][110]方位での真逆の抵抗変化が起こる現象を、c軸([001]方向)のV-O-V間の原子間距離が電気伝導特性に非常に敏感に作用することが実験から解り、今後どのような物性原理が働いているかの考察を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度では、ひずみ効果による巨大抵抗変調のメカニズム解明のための研究を行い良好な実験結果を得たことによって、定量的な解析ができる準備が整った。 また、最大100KHzで抵抗計測ができるシステムを立ち上げたことににより、VO2単結晶の巨大ひずみ率による脈波計測を行う準備が整ったため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は実験データの解析を行うフェーズに移る。定性的には、ひずみ印可で結晶構造が変化すると、V4+の3d電子軌道の重なりが変調される。特にc軸方向([001]方向)は伝導電子が1個入った3dx2-y2軌道が張り出しており、電気伝導特性の主要素を決定する軌道であると考えられる。実験結果をこのことから[001]方向への歪による伸縮は、電気伝導変調に多大な影響を与えていると考えている。前年度では、ひずみ効果による巨大抵抗変調のメカニズム解明のための研究を行い良好な実験結果を得た。今後は実験データをもとに解析を進め、さらにひずみゲージ率を高める膜厚・形状の工夫を行う。 また、立ち上げたリアルタイムでの曲げひずみでの動的抵抗変化を高速サンプリングで行い脈波検出への応用を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ、予定通りの予算執行であったが、本研究に関わる旅費経費がかからなかったため。
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