研究課題/領域番号 |
20K21091
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 幸生 九州大学, 工学研究院, 准教授 (80581991)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | RPA / ロボッティック・プロセス・オートメーション / 電子顕微鏡 / 強誘電体 |
研究実績の概要 |
本研究では、原子分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)像データから原子位置を決定して、強誘電性などの特性発現メカニズムの解明に繋げる研究を行っている。原子分解能STEM像から原子位置を決定する過程で必要となる多くのコンピュータ作業を自動で行うRPA(ロボッティック・プロセス・オートメーション)のロボットを開発することに成功した。条件付きではあるが、STEM像データから原子位置解析、格子定数マップやイオン変位マップの作成までの過程を100%自動化することに成功した。成果の一部はYoutube動画として公開している。(https://youtu.be/Zw2qbA2ebnA) 計画2年度目の令和3年度には、1.RPAの適用をSTEM像シミュレーション研究にも適用する研究を行った他、2.強誘電体解析にも適用を開始しており、成果が得られつつある。 1.STEM像シミュレーション研究へのRPAの適用では、グラフィック・ユーザー・インタフェース(GUI)ベースのシミュレーションソフトで像シミュレーションからイオン変位マップの可視化までの自動化を行った。作製したRPAロボットを使ってアモルファスカーボン上のチタン酸バリウム(BaTiO3)ナノ粒子について、環状明視野STEM像のシミュレーションを行い、BaTiO3ナノ粒子中の酸素イオン可視化の可能性を検討した。その結果、8~20nmの粒子サイズのBaTiO3ナノ粒子では、10nm程度の厚さのカーボン膜上に担持されていても酸素イオン位置が十分に精度良く決定されるノに対して、粒子サイズが4nm以下になると、イオン位置の精度に問題が生じることが明らかとなった。また、2.Pb(Zr,Ti)O3薄膜などの材料解析では、Hf0.5Zr0.5O2ナノ粒子やPb(Zr,Ti)O3薄膜などにおいて、材料中の格子定数を精度良く決定するに至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に8~9割方達成していた原子分解能STEM像解析の自動化を2年度目でほぼ完成させることができた。自動化の過程において、当初は困難とみられていた2,3の項目においてもRPAソフト(Uipath Studio)とExcelのテーブル機能による連携を旨く活用することで解決がなされた。また、当初計画では想定していなかったが、STEM像解析にもRPAロボットの適用を進めることができた。具体的にはGUIベースのSTEM像シミュレーションソフトを用いた研究に適用することができ、RPAロボットのより広い適用可能性を示すことができたのは当初計画以上の成果であった。 また、本研究の一環として、強誘電体ナノ粒子、強誘電体薄膜の構造解析自動化を進めている。BaTiO3ナノ粒子においては室温における測定から原子位置の自動化が終わり、強誘電性を示すことが明らかとなっている。今後、最終目的としている高温測定へ進む予定である。また、当初計画には入っていなかった、Hf0.5Zr0.5O2ナノ粒子の合成および原子分解能STEM像解析にもRPAロボットによる解析を一部適用して、Hf0.5Zr0.5O2ナノ粒子が強誘電性を示しうる直方晶相的なカチオンの配列を有している事を明らかにして、論文公表に至った(Fujimoto et al., J. Am. Ceram. Soc., 105, 2823 (2022).)。また、こちらも当初計画には入っていなかった強誘電体薄膜にも適用を進めており、AlN薄膜やPb(Zr,Ti)O3薄膜において原子位置の測定が進んでいる。Pb(Zr,Ti)O3膜においては、強誘電ドメインにおけるa、c軸方向の決定に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
計画最終年度となる令和4年度には、まず、強誘電体ナノ粒子であるBTナノ粒子の原子分解能STEM観察をおこなう。これまでの研究成果に基づいて、対象として良好であると考えられる平均粒子サイズが約17nmの粒子について、室温から600℃程度までの高温まで、数点において原子分解能STEM像を測定して、RPAロボットで自動的に原子位置解析、格子定数マップやイオン変位マップの作成を行い、格子定数および変位分布の変化から相転移温度であるキュリー点の同定を試みる。 加えて、他の強誘電体材料にも同手法の適用を進める。前年度より研究対象として加えたHf0.5Zr0.5O2ナノ粒子はセラミックスに固化した後に物性測定と連携して、原子分解能STEM解析から強誘電性の探索を行う。同材料系において強誘電性が確認されれば初の報告となる。また、強誘電体薄膜においても適用を進めて、Pb(Zr,Ti)O3膜やPb(Zr,Ti)O3超格子膜において、格子定数分布の解析やドメイン構造の解明に繋げていく。 また、RPAロボット自体も適宜改良を行っていく。具体的には、STEM像中における初期原子位置を自動的に与える機能の付与をAIとの連携を用いて試みる。 最後に、得られている研究成果(令和3年度に行ったSTEM像シミュレーションの成果)などは逐次論文発表を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画をより大きく成功させるために、実験の一部を令和4年度に延長して行うことととなったため、研究期間の延長に伴い、次年度使用額が生じた。 令和4年度には原子分解能電子顕微鏡(STEM)観察を行うために必要となる物品の購入、学会発表に伴う旅費が必要のため計上する。また、実験補助を行うテクニカルスタッフの人件費を計上する他、電子顕微鏡観察実験を行うために装置使用料をその他の経費として計上する。
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