研究課題/領域番号 |
20K21093
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
斉藤 光 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (50735587)
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研究分担者 |
波多 聡 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (60264107)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 透過電子顕微鏡 / 転位 / その場観察 / 機械学習 / ノイズフィルタリング |
研究実績の概要 |
転位運動のその場観察を実現するために、機械学習を活用した電子顕微鏡観察の高速化を試みた。薄膜効果の低減のため、なるべく厚い試料において転位観察が可能になることが望ましく、結像系の色収差の影響を受けない走査透過電子顕微鏡法における高速化を進めた。走査速度100ナノ秒/ピクセルに達すると、走査方向に信号が滲む走査像特有のアーティファクトが顕在化することが判明した。おそらく検出器の応答速度が十分でないことに由来したアーティファクトと考えられる。このような装置固有の応答がランダムノイズに重畳して画像が劣化すると、適切なフィルターを推定することが困難になる。また、走査速度100ナノ秒/ピクセルの高速走査時には、走査デバイスの動作に非線形性が現れ、画像が走査方向に非線形に歪むことも明らかとなった。このようなアーティファクトを除去するために機械学習を活用したノイズフィルタリングや独自アルゴリズムに基づく画像歪み補正を開発した。その結果、走査速度100ナノ秒/ピクセルで取得した画像が、一般的な走査速度の5マイクロ秒/ピクセル程度で取得した画像と遜色ないところまで像質を改善することができるようになった。開発されたノイズフィルタリングの性能は非学習型のノイズフィルタリングで最も高い性能を示すことで有名なBM3Dを大きく上回ることも明らかとなった。機械学習により、装置や撮像条件に固有の予測困難なノイズに対しても最適化されたノイズフィルタリングが可能であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
開発した機械学習ノイズフィルタリングによって、100ナノ秒/ピクセルの高速走査で取得された低信号画像から、400nm程度の厚みの鉄鋼材料中の転位線位置を明確に抽出することが可能になった。すなわち、30ミリ秒/フレームの高速その場観察を転位運動に適用する準備が整ったと言え、計画どおりに進んでいると判断できる。さらに、この手法の応用として、転位の高速トモグラフィー観察を実施した。具体的には、140°の試料傾斜角度範囲にわたる70枚の連続傾斜像をわずか5秒で収録することが可能になった。これは走査透過電子顕微鏡法によるトモグラフィーの例としては、どの先行研究よりも速く、世界最高速度の3次元ナノイメージング手法を開発することができたと言える。このような3次元観察法の高度化は当初計画にはなかったが、本研究に必要な要素技術開発が当初計画以上に早く進展したことにより、自然な発展として達成された。今後、様々なその場観察技術と組み合わせ、時間発展を含む4次元的なデータ取得に応用されることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
機械学習を援用したノイズフィルタリングをさらに高度化させる。これまで複数枚の高速走査像を平均化したものを学習過程における教師データとしているが、この手法では撮像系の応答速度不足による画像の走査方向への滲みによる劣化が残る。これまでの開発で高速走査に伴う画像歪みの補正については高い精度で実現されており、画質の良い低速走査像を直接教師データとした学習が可能になると期待できる。この改善により、さらに高速な走査透過電子顕微鏡像を高い品質で取得できるようにする。また、開発されたノイズフィルタリング技術をその場試料変形観察ならびにその場試料加熱観察に応用し、ミリ秒撮像速度を活かして転位運動の解析を試みる。
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