研究課題
硬度、熱伝導率等で最大の物性を持つダイヤモンドにおいて、過去に未踏の大きな格子ミスフィットを伴うドーピングへの自由度が得られれば飛躍的な機能応用展開が期待できる。近年のダイヤモンドの研究では窒素(N)と空孔の複合欠 (NV-センター)を活用した高感度磁気センシングを始めとする量子応用へ拡張している。この際、ダイヤモンドの単結晶成長においては高純度化と共に適切な元素ドーピング制御である。しかし、異種元素を寄せ付けない、ダイヤモンド固有の物性の源となる強固な共有結合性の所以で、ダイヤモンドへの異種元素のドーピングは容易ではない。ダイヤモンド中の主たる不純物は炭素の両隣のホウ素(B)と窒素(N)であり、理論的にはダイヤモンド中にBとNが固溶する際、B-Nペアの形成が安定と予想される。そこで、ダイヤモンド中に100ppmレベルでのB-Nペアによる複合欠を形成し、大きな格子ミスフィットを伴う異種元素のppmレベルのドーピングに挑む。2021年度研究実績は以下にまとめられる。(1)ダイヤモンド中の窒素濃度を0.1~100ppmレベルで制御する高圧合成条件を確立した。(2)ダイヤモンド中の窒素濃度制御した上で、微量のホウ素を添加することで、1~10pm領域の濃度における窒素、ホウ素が共添加された単結晶を合成した。(3)窒素濃度はESR法により、結晶内で炭素原子を置換したP1センター濃度により評価し、ホウ素濃度はSIMS分析により評価した。(3)窒素濃度を1ppm以下に制御した条件下でスズ(Sn)を溶媒系に添加し、Snのドーピングに挑んだ。(4)Sn添加の効果は高圧下でのダイヤモンド成長時における顕著な再結晶黒鉛の生成として観察されたが、同時に良質のダイヤモンド単結晶も得られた。新規のカラーセンターが観測されて居るが、Sn由来であるかの評価は今後の課題である。
2: おおむね順調に進展している
ダイヤモンド中の窒素不純物濃度を0.1~100ppmまで連続的に制御する合成条件を確立した上で、ホウ素原子の精密な添加を行った。窒素過剰の黄色からホウ素過剰の青色のダイヤモンド結晶とともに、中間領域でほぼ無色のダイヤモンド結晶が得られた。更に異種元素としてSn,Eu,Mn等を添加しても、ダイヤモンド単結晶が得られることを明らかにした。カラーセンター探索が引き続きの課題である。
引き続き、ダイヤモンド中に100ppmレベルでのB-Nペアによる複合欠陥を形成し、 大きな格子ミスフィットを伴う異種元素のppmレベルのドーピングに挑む。高濃度BNペア形成への挑戦度は高いが、これまでの1500℃領域の高圧合成に加え、非金属触媒による2000℃領域での展開に挑む。
高圧合成条件を当初計画していた5万気圧と8万気圧から、5万気圧領域に集中したため、8万気圧領域で行う実験の経費を次年度に繰り越した。5万気圧領域におけるダイヤモンド合成に集中した理由は、ホウ素、窒素濃度の制御と定量分析に時間を費やしたことによる。研究発表成果の国際会議での発表を予定していたがコロナ渦の影響で中止したため、旅費の繰り越しを行った。10ppmレベルでのホウ素、窒素濃度の制御と共に、異種元素の添加を起原となる新たなカラーセンターの探索を行なう。更に8万気圧、2000℃領域での結晶成長、熱処理を進め、高温下でのドーピング効果、カラーセンターの改質等の効果を検証する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
Japanese Journal of Applied Physics
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