本研究では、過去に未踏の大きな格子ミスフィットを伴うダイヤモンド中へのドーピングの自由度の獲得を目指した。ダイヤモンド中の主たる不純物は炭素の両隣のホウ素(B)と 窒素(N)であり、ダイヤモンド中にBとNが固溶する際、B-Nペアの形成が安定と予想される。そこで、ダイヤモンド中に100ppmレベルでのB-Nペアに よる複合欠を形成し、大きな格子ミスフィットを伴う異種元素のppmレベルのドーピングに挑んだ。 (1)ダイヤモンド中の窒素濃度を0.1~100ppmレベルで制御する高圧合成条件を確立した。(2)その上で、微量のホウ素を添加することで、1~10pm領域の濃度における窒素、ホウ素が共添加された単結晶を合成した。(3) ESR法による結晶内で炭素原子を置換したP1センター濃度とSIMS分析によるホウ素濃度の相関より、P1センター濃度がホウ素ドープ濃度に連動し、ダイヤモンド中でB-Nペアが生成していることが示唆された。4)ホウ素―窒素濃度を10ppm程度に制御した条件下でスズ(Sn)のドーピングに挑んだ。比較的良質の ダイヤモンド単結晶が得られ、新規のカラーセンターが観測されたが、既知のSn由来の発光は観測されなかった。合金溶媒とSnの親和性を勘案した戦略を練り直す必要がある。 8万気圧、2000℃領域の合成条件でMg溶媒によるSnのドーピングを試みた。 同条件下での微粒子ダイヤモンド合成とSnカラーセンターの観測がロシア、ノボシビリスク研究所より報告されている。種々の条件(圧力、温度、溶媒組成)を検証したが、1mm程度のダイヤモンド結晶は得られるが、Snカラーセンターは観測されていない。ロシア研究チームの再現性の検証が引き続き課題である。この他、関連成果としてIV族元素をイオン打込みしたダイヤモンドの高圧アニールによる発光特性の改善を進めた(東工大、岩崎研との共同研究)。
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