高圧CO2を媒体とした,難水溶性医薬物質の共結晶形成の高速化プロセスの構築において,昨年度までに医薬物質粉末の表面における結晶構造の緩和が,共結晶の形成に大きく影響することを確認した.高圧CO2中における医薬物質の共結晶形成のさらなる促進を目的として,高圧CO2が溶解した脂質を媒体とした分子結晶インプリンティング技術に関する研究を実施した.医薬物質として,気管支拡張剤であるtheophylline,ならびに抗真菌薬であるitraconazoleを用い,それぞれの共結晶形成における高圧CO2が溶解した脂質媒体の影響について検討した.Theophyllineと共有体であるnicotinamideとの共結晶および,itraconazoleと共有体であるsuccinic acidとの共結晶形成において,高圧CO2が溶解した脂質を媒体とすることで,共結晶の形成率が向上することを確認した.特に,itraconazoleとsuccinic acid系では,脂質への高圧CO2の溶解が共結晶の形成へ大きく寄与していることがわかった.このように,高圧CO2が溶解した脂質を媒体として形成された共結晶は,従来技術で形成された共結晶と比較して,医薬物質の徐放性が出現することが確認された.これは,共結晶構造内に脂質分子が存在し,結晶相から水溶液(体内)への医薬物質の拡散を抑制していることが示唆される.また,本研究で構築した高圧CO2を活用した共結晶形成プロセスでは,医薬物質と共有体が共結晶を形成した後に,高圧CO2を流通させることで,共結晶構造内に存在する脂質分子を高圧CO2相へ抽出することが可能となる.これにより,共結晶内の脂質量をコントロールすることで,医薬物質の溶解速度を制御する技術が構築された.
|