研究課題/領域番号 |
20K21111
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松山 秀人 神戸大学, 先端膜工学研究センター, 教授 (50181798)
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研究分担者 |
佐々木 雄史 神戸大学, 先端膜工学研究センター, 助教 (60821618)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 膜分離 / 有機溶剤超ろ過(OHF) / 耐溶剤性OHF膜 / 有機溶媒液-液分離 / ポリアミド複合膜 |
研究実績の概要 |
化学品製造プロセスにおいて有機溶剤の分離・濃縮に多用される蒸留法は、多量の熱エネルギーを必要とする極めてエネルギー消費の大きいプロセスである。一方、膜分離法は格段に省エネルギーな分離法ではあるものの、これまでは有機溶剤の液-液分離プロセスに適用できる膜は無いのが現状である。そこで本研究は、大幅な省エネルギー化を目指して、有機溶剤系で直接溶剤-溶剤間の膜分離を行う新規有機溶剤超ろ過膜法(Organic solvent Hyper Filtration; OHF)の創出を目指す。 本年度はOHF膜として、多孔性支持膜と表面緻密層から成る複合膜の製膜を検討した。支持膜としては溶媒耐性を有するポリケトンを素材とする多孔膜の製膜条件を検討した。緻密層としては、フッ素含有ポリマーであるAF2400を用いたスピンコート法による薄膜形成法およびフッ素元素を含有する置換基を導入した界面重合法ポリアミド層形成法の2方法を検討した。両方法ともポリケトン支持膜上に緻密層を形成させることで、OHF複合膜を作製した。作製したOHF膜について各種有機溶媒系での性能評価を行った。まず純溶媒の透過性評価を行ったところ、両膜とも溶媒極性と分子量に対応した特徴的な透過挙動を示した。次に、混合溶媒系での分離を検討した。AF2400/ポリケトン複合膜をエタノール/n-ヘキサン混合系で評価したところ、高いn-ヘキサン選択透過性を示した。一方、フッ素化ポリアミド/ポリケトン複合膜をn-デカン/トルエン混合系で評価したところ、トルエン選択透過性を示した。これらの結果から、開発OHF膜により、n-アルカンとアルコールの分離、n-アルカンと芳香族溶媒の分離がそれぞれ可能であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)OHF膜の開発 耐溶剤性分離膜(Organic solvent Hyper Filtration(OHF)膜)として、多孔性支持膜と表面緻密層から成る複合膜の製膜検討を行った。支持膜としては溶媒耐性を有するポリケトンを素材とする多孔膜の製膜条件を検討した。緻密層としては、フッ素含有ポリマーであるAF2400を用いたスピンコート法による薄膜形成法およびフッ素元素を含有する置換基を導入した界面重合法ポリアミド層形成法の2方法を検討した。両方法とも支持膜の上に緻密層を形成させることで、OHF複合膜を作製できた(以下、AF2400/ポリケトン複合膜、フッ素化ポリアミド/ポリケトン複合膜とする)。 (2)OHF膜の性能評価 作製したOHF膜について各種有機溶媒系での性能評価を行った。まず純溶媒の透過性評価を行ったところ、AF2400/ポリケトン複合膜での透過性はn-アルカン>芳香族溶媒>アルコールの順となり、非極性溶媒の透過性が良好であった。一方、フッ素化ポリアミド/ポリケトン複合膜ではアルコールとn-アルカンのうち分子量の小さいものおよびトルエンで比較的透過性が高く、分子量が大きい溶媒は透過性が低い傾向が見られ、溶媒の極性よりも分子量の影響が大きいことが分かった。次に、混合溶媒系での分離を検討した。AF2400/ポリケトン複合膜をエタノール/n-ヘキサン混合系で評価したところ、1:1(w/w)混合系において10倍以上の高いn-ヘキサン選択透過性を示した。一方、フッ素化ポリアミド/ポリケトン複合膜をn-デカン/トルエン混合系で評価したところ、1:9(w/w)混合系において約40%のn-デカンに対する阻止性が得られた。これらの結果から、開発OHF膜により、n-アルカンとアルコールの分離、n-アルカンと芳香族溶媒の分離を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)OHF膜の開発 引き続き、フッ素基の導入によって各種溶媒に対する膜の親和性を制御したOHF膜の製膜検討を進めるとともに、膜の安定性(耐久性)の評価、膜の構造と溶媒選択性との関係の精査を行って、膜の最適化を行う。また、透過性、分離性をさらに高めるために、ポリアミド緻密層へのカーボンドットチャネル分子の導入を試み、緻密層の改質による溶媒の高速透過、高選択分離の実現を目指す。 (2)OHF膜の性能評価 作製したOHF膜について、各種有機溶剤混合系での分離性能評価を行う。メタノール/トルエンのように共沸のため蒸留法では分離が難しい共沸混合系や、トルエン/n-デカンのような疎水性溶剤(芳香族/直鎖アルカン)の混合系をモデル系として、有機溶剤透過速度、選択分離性、安定性等の性能評価を行い、その結果を製膜検討にフィードバックすることでOHF膜創製を加速する。 (3)OHF膜のフィージビリティー評価 OHF膜の適用先として、蒸留への依存度が高い石油精製プロセスへの応用を検討する。石油精製プロセスでは蒸留塔による分離が行われているが、特に重質ナフサからの芳香族化合物(ベンゼン、トルエン、キシレン:BTX)製造プロセスでは、高温(約500℃)の接触改質と組み合わせて、重質ナフサ(パラフィン、ナフテン、BTXの混合物)からBTX製造を行っているため、エネルギー消費の大きいプロセスとなっている。従って、トルエン/n-デカン混合溶液系で得られた膜の性能評価データを基に、BTX製造プロセスにおけるOHF膜適用プロセスを構築する。この膜分離プロセスについて、蒸留法と比較したエネルギー消費削減効果や装置体積削減効果等の試算を行い、性能、経済性両面からフィージビリティー評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染症流行の影響で膜に関連する学会が全てリモート開催となるなど、出張のほとんどが取り止めとなったため執行残が発生した。次年度も同様の状況が続くようであれば、他の項目での執行を早めに検討する。
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