研究課題/領域番号 |
20K21113
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松原 輝彦 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (10325251)
|
研究分担者 |
竹村 研治郎 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (90348821)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 定在波 / 音響波 / 浮揚 / 非接触界面 / バイオリアクター / 超音波 / 無容器反応 / 音響放射圧 |
研究実績の概要 |
本研究では液滴を空中に浮揚することにより、容器材料と接触する界面がどこにもない全方位非接触界面での革新的リアクターの実現を目指している。化学および生物学研究を行う場合、これまでガラス、金属、陶器もしくはプラスチックなどの素材による反応容器が用いられてきた。もし無容器反応が実現すれば、持続可能な開発目標(SDGs)に適合する。化合物や生体物質、大腸菌や動物細胞などを水滴に入れて浮揚させることにより、反応容器材料との接触がない新規な反応場として利用できる可能性がある。これまでに超音波の音響放射圧を反射板にあてることにより液滴を浮揚させ、安定に水溶液を空中に浮揚させる技術を実装してきた。 初年度はタンパク質を用いた酵素反応およびDNAを浮揚液滴内に入れて、生化学反応が進行するか検証した。薬物開発やセンサーを開発する実験において、ウイルスやタンパク質が反応容器やセンサー表面などに非特異的に結合して失活し、正確な生理活性評価を妨げることが課題の1つとなっている。容器材料との望まない相互作用を避けるため、本研究は材料との「接触そのものを行わない」という発想で行なった。しかし超音波の利用は、器具などの洗浄で、分子を「破壊」「除去」する場合に用いるという考えが一般的であり、キャビテーション現象による生体物質への損傷の影響が懸念される。その結果、浮揚させてもプラスミド核酸の構造が維持され、酵素反応が大きな活性を失うことなく進行することを確認し、液滴内で生命維持ができる可能性が示唆された。さらに超音波利用による生体物質への影響の確認として、フラスコ内の細胞懸濁液への超音波照射による浮遊培養を試み、増殖率の向上というポジティブな影響を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質を用いた酵素反応では、ペルオキシダーゼ酵素と基質を混合させ、反応すると発色する反応の進行を動画で撮影し、発色過程をリアルタイムで追跡することに成功した。またプラスミドベクターの酵素による切断反応を浮揚液滴内で行い、アガロースゲル電気泳動で確認できた。さらに超音波によるDNA破断などのダメージがないことが明らかになった。これらの結果は、液滴内でタンパク質や核酸が正常に生理活性を維持できる可能性を示唆する。さらに細胞培養に関連し、細胞懸濁液を導入したフラスコに外部から超音波を照射した浮遊培養により、照射なしの場合と比較して増殖率が向上した。適切な出力調整によって超音波照射の生物応答に対する有効性が示された。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度ではほぼ計画通りに研究が進んだことから、次年度も計画通りに進める。まず細胞培養を目指した準備として、培養液や大腸菌を浮揚させ、回収した溶液の菌体生存率の検証をする。また動物細胞での培養に向けた検討を進める。また安定に浮揚させるために、リアルタイムで監視する装置の開発に着手する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、購入予定していた物品の生産および流通が滞り、一部納入を翌年度に持ち越すこととなった。この未使用額は、次年度に未納入分の購入費として充当する。これ以外の次年度資金は、計画通りに使用する。
|