研究課題/領域番号 |
20K21114
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
片野 諭 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (00373291)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 酸化グラフェン / 走査トンネル顕微鏡 / 走査トンネル分光 / 走査トンネル顕微鏡発光 |
研究実績の概要 |
酸化グラフェン(GO)の光電子物性は、導電性のsp2ドメインと、酸素官能基が接続された絶縁性のsp3ドメインで構成されるナノ構造で支配される。特にsp2ドメインのサイズや空間分布は、電気伝導や発光などGOの機能性を決定する主な要因となるが、それらナノドメインを微視的に評価できない問題を抱えていた。例えば、ナノ構造の物性を個々に評価できるツールとして走査トンネル顕微鏡(STM)が挙げられるが、絶縁性ドメインを含むGOは導電性が低いためSTMで観察できないとされていた。我々のグループでは、水の除去と単層観察によりこれまで不可能とされていたGOのSTM観察に成功し、これまでのGO研究の概念を覆した。ここで、STMナノスペクトロスコピーがブレークスルー技術となり、振動・電子状態や光物性などGOの機能性に関わるナノ物性が一気に解明される挑戦性の高い本研究の着想を得た。 本研究課題では、一つ一つの原子や分子の特性を個々に調べることができるSTMスペクトロスコピーを駆使して、これまで不明だったGOのナノ光電子物性を解明することを目的とした研究を行う。研究2年目となる令和3年度では、試料基板の評価、STMを用いたGOのナノ構造観察と微視的な電子状態評価を行った。具体的には、試料基板として用いる有機単分子膜の構造と化学状態の評価を高分解能電子エネルギー損失分光法で行った。またSTMや原子間力顕微鏡を用いて、GOの吸着構造を調べた。STMによるトンネル分光(STS)により、GO内に局在した電子状態を明らかにした。さらに、金属ナノ微粒子を用いたナノカーボン形成について成果があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究2年目となる令和3年度には、有機単分子膜基板の構造と化学状態の評価、および昨年度に改良した超高真空装置を用いてGOのナノ構造観察と電子状態評価を行った。さらに、金属ナノ微粒子を用いたナノカーボン形成について成果があった。 試料基板として用いる有機単分子膜の吸着構造と化学状態をHREELSで調べた。C8SとC10FSの単分子膜のHREELS計測を行ったところ、分子骨格に起因する振動モードが明瞭に観測された。この結果は、分子の化学状態が単分子膜形成後も保存され、さらにその単分子膜が高い整列性を有することを示唆している。上記の有機単分子膜上にGOを吸着させたところ、分子種によってGOの吸着構造が変化することを見出した。特にC10FS上ではGOが凝縮し平面構造を保てないことを明らかにした。 GO基板のナノ構造、および電子状態をSTMで評価した。像観察から、高さ1 nm程度の単層GOを確認した。この単層GO上で得たSTSスペクトルには明瞭なギャップ構造が見られた。このギャップエネルギーは、0.5から3.0 eV程度であり、そのエネルギー値に明瞭な位置依存性が見られた。エネルギーギャップが大きいほど、その電子状態は局在していることを見出した。この結果は、観測されたギャップ構造がGO のsp2ドメインに由来することを示唆している。エネルギーギャップの大きさが場所によって異なることは、sp2ドメインの大きさが不均一であるためである。 高分子で被覆した金属ナノ微粒子を超高真空下でアニール処理すると、微粒子の形状変化が起こり、同時に高分子がナノカーボン化することを見出した。熱反応によって、ナノ微粒子の形状変化とナノカーボンの分解脱離が促進され、ナノ微粒子の焼結が誘起されることを明らかにした。一方、レーザーを用いた光反応では、微粒子形状を保持したまま高分子がナノカーボン化することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
STMによるナノ構造観察と、STMスペクトロスコピーの研究を引き続き行い、局在したGOの電子状態の全容解明を目指す。今後、STM発光などの計測を組み合わせて、未開拓であるナノスケール領域におけるGOの光電子物性解明に取り組む。このような挑戦的な研究を展開することで、応用上極めて重要となる電気伝導に関与するドメインや発光増強や消光に関与するドメインの同定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大に伴い、学会や研究会がオンライン発表・中止となり、また予定していた共同研究がオンラインによる打ち合わせとなった。そのため、次年度繰越金が生じた。繰越金の用途として、2022年度に振り替えられた学会の発表、予定されていた共同研究にあてる。
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