研究課題/領域番号 |
20K21115
|
研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
木下 幸則 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (10635501)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 磁気力顕微鏡 / 透磁率 / ナノ磁性粒 / インピーダンス |
研究実績の概要 |
本研究は磁性体の透磁率の複素成分の分布をナノスケールの空間分解能で描画する新たな磁気力顕微鏡法を開発して、ナノ磁性体の磁気共鳴の動力学を明らかにすることを目的とする。2021年度は開発中の磁気力顕微鏡の力センサーの調整と磁気力検出に関して以下の項目を実施した。 (1)音叉型水晶振動子のQ値回復法の開発: 磁気力を電気的なインピーダンス変化として計測するには、力センサーである水晶振動子の梁と探針にマイクロ波を導波する必要がある。今年度に実施した導波実験では、高周波同軸ケーブルの信号ラインと梁を近接させたときの伝達効率の上昇が予想以上であることが判明した。これを受け、同軸ケーブルと水晶振動子を一体化した構造での励振特性を検討した。音叉型水晶振動子は2本の梁の質量バランスが大きく崩れると、内部応力の不均衡によりQ値が激減し、顕微鏡としての力検出感度が低下する。そこで、探針を接着する梁側だけでなく、反対側の自由梁側にも圧電ピエゾを対向設置し、水晶内部での応力を音叉の根元でバランスさせる方式を新たに考案した。まず有限要素法を用いて励振に伴う変位と応力分布を詳細に解析した。結果として、伝送路と探針を合わせた質量程度の差であれば、Q値は探針を取り付けただけの場合の値を超えて回復することを明らかにした。励振実験でも、シミュレーションとほぼ一致するQ値の回復を確認した。 (2) 水晶振動子を用いた磁気力検出: 水晶振動子にバルクの磁性ワイヤーを接着して磁気力顕微鏡の力センサーを作製し、磁気力が検出できることを確認した。有限要素法で探針を取り付けた水晶振動子の振動モードを洗い出し、力検出に利用できない不要モードが発生しにくい探針取付位置と探針長さを明らかにした。コイルを磁場源とした実験でも磁気力の検出を確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
21年度の推進項目は、磁気力顕微鏡の試作機における音叉型水晶振動子を用いた力センサーの開発とそれらを用いた磁気力検出の確認であった。途中、水晶振動子の梁構造に高周波の伝達機構を付加・接触させた際に生じるQ値の低下と高周波信号の伝達効率の相反という新たな課題に直面したが、これに対し、水晶振動子の励振方式として新たに対向励振方式を考案することで、顕微鏡としての力検出感度と高周波信号の高い伝達効率の両立が可能になり、結果として磁気力の検出も確認できた。この2つのピエゾを用いた対向励振方式では、励振条件によっては高周波伝達機構などが無い場合よりもQ値が高くなり、検出感度も上がるという予想外の良い結果が得られた。計画していたネットワークアナライザを接続させた場合のマイクロ波パワーの最適化等の細かい条件出しは未遂行であるが、磁気力顕微鏡開発の重要な項目である水晶振動子を用いた励振系の開発・調整がほぼ終了したので、おおむね順調とした。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、磁性体試料を用いた複素インピーダンス計測の実証を目指し、(1)複素インピーダンス計測が可能な磁気力顕微鏡の最終調整、(2)実用磁性体試料を用いた磁気力と複素透磁率の同時マッピング、の2点を推進する。 磁気力顕微鏡の開発では、高周波コイルから発生するギガヘルツ帯の磁場を試料磁場として磁気力の検出感度を確認するほか、磁気力と同時にネットワークアナライザを用いてSパラメーター(信号の入反射)を取得し磁気力に起因するインピーダンス変化の計測を確認して、顕微鏡の最終調整とする。力センサーとして用いる音叉型水晶振動子は、前年度に考案した対向ピエゾ方式で励振させる。これにより、水晶振動子に磁性探針と高周波同軸ケーブルを付けた状態でも高いQ値が維持されて、高い力検出感度が期待できる。探針は共振周波数で振動させ、力検出方式には探針の共振周波数シフトを用いる高感度な周波数変調(FM)方式を採用する。試料磁場源である高周波コイルは低周波で変調し、磁気力に起因する共振シフトに含まれる低周波の変調成分を計測する。変調成分の強度から磁気力に対する検出感度を見積もる。感度が不十分な場合は探針の振動モードや振動振幅を調整し、それでも不十分な場合は磁性探針の材料を変更して対応する。Sパラメータの信号強度が弱い場合、入力マイクロ波パワーと周波数フィルタの帯域幅で調整し対応する。 最終的なマッピングに用いる磁性体試料としては、流通している磁気デバイスと同じ組成を持つ軟磁性体のナノ磁性粒を用いる。探針と試料間に作用する磁気力とネットワークアナライザで取得するSパラから変換した複素透磁率のマッピングを行い、新しい磁気力顕微鏡法として本手法の有効性を確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は磁気力顕微鏡の磁性探針と試料間に作用する磁気力と同時に電気的インピーダンスを計測するために高周波のネットワークアナライザ(2ポートタイプ)を購入し、インピーダンス計測の調整を行う予定であったが、水晶振動子を用いた磁気力センサーの開発で、センサーの振動特性と力検出感度を向上させる非常に良い進展があったため、これをさらに進めてインピーダンス計測の調整を再度、次年度に持ち越すことにした。これにより未使用額が生じた。なお、顕微鏡に組み込まない状態での調整の見通しは立っているため、顕微鏡に組み込んだ状態での調整にもさほど時間を要すことなく終了すると予想される。未使用額は、ネットワークアナライザと力センサーの接続に必要なマイクロ波部品や構造部品の作製に使用する予定である。
|