研究課題/領域番号 |
20K21116
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
黒田 眞司 筑波大学, 数理物質系, 教授 (40221949)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 単一スピン / 交換相互作用 / 量子ドット / 顕微分光 / スピン‐歪結合 |
研究実績の概要 |
本研究では、半導体ドット中の単一磁性スピンと格子振動との結合を調べることを目的としている。CdTe自己形成ドット中のCr原子1個の磁性スピンを対象に、表面弾性波(SAW)により時間的に変動する格子歪を加え、Crスピン間の遷移を検証し、フォノンを媒介としてCrスピンを制御する手法を開拓することを目指して研究を行う。初年度である今年度は以下の研究を行った。 (1) 自己形成ドットに対するSAWによる格子歪の効果を検証するため、Cr原子を含まないCdTeドット試料に対し、SAW発生のための試料構造を作製し、SAW発生下でのフォトルミネッセンス(PL)測定を行った。その結果、SAW発生に伴う格子歪により、ドット中の励起子発光スペクトルが時間的に変化する様子を観測した。さらにパルス状のSAWの発生下での発光スペクトルの変化の観測も行い、SAWが試料中を伝播する様子を明らかにした。 (2) これまでの研究では、Cr原子1個を含むCdTeドットからの発光スペクトルは3ないし5本の発光線から成り、ドット中の励起子が2価のイオン(Cr2+)状態のCrスピン(S = 2)との交換相互作用により分裂したためと考えられてきた。その一方で、7本以上の発光線から成るなどこれまでとは異なるスペクトルが観測された。スペクトルの分裂の様子、偏光状態、磁場印加に伴う変化などの振舞いがMn原子1個を含むドットの発光スペクトルと類似していることから、1価のイオン(Cr+)状態のCrスピン(S = 5/2)との交換相互作用による分裂であるとの解釈を提示し、Crがドット中でCr+状態となるメカニズムについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CdTeドットからの励起子発光のSAWによる変調を確認でき、またCr原子を含むドットからこれまでと異なるスペクトルを観測し、Crの異なる価数のイオン状態を見出したため。
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今後の研究の推進方策 |
Cr原子1個を含むCdTeドット試料に対してSAW発生下で発光測定を行い、単一Crスピンの格子歪による変調を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度前半はコロナ禍のため大学キャンパスへの入構が規制され、実験を行うことが出来なかった。そのため、今年度の研究を当初の計画通り進めることができなかったため、次年度使用額が生じた。次年度は計画されていた実験の遂行のための経費として使用する予定である。
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