研究課題/領域番号 |
20K21118
|
研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
八井 崇 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80505248)
|
研究分担者 |
飯田 健二 北海道大学, 触媒科学研究所, 准教授 (20726567)
田村 宏之 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (60390655)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 光異性化 / 近赤外光誘起 |
研究実績の概要 |
光異性化は古くから知られている。分子の異性体が変化することで、特性が劇的に変化するため、このような性質を利用して、近年では、光薬理学などの応用が世界的に広く行われている。しかしながら、光異性化は可視光あるいは紫外光によってしか生じない。そこで、本研究では近接場光エネルギーアップコンバージョンによって近赤外光を紫外光に変換するナノフォトニック集光体を作製し、近赤外光での異性化反応を誘起する。 エネルギーアップコンバージョンを行うために、ナノフォトニック集光体に関する基礎研究を行った。ナノフォトニック集光体では、近赤外光を照射した際に、近接場光誘起の二次高調波発生(Second Harmonic Generation: SHG)を誘起し、高効率に紫外光を発生させるものである。ナノフォトニック集光体は大小二種類の量子ドット(QD)から構成される。その際、小さいQDの基底エネルギーと大きいQDの励起エネルギーが共鳴しているものを利用する。これを隣接して合成すると、小さいQDで発生したSH光が大きいQDにエネルギー移動を起こして集光されるので、高効率に近赤外光→紫外光へのエネルギーアップコンバージョンが実現する。 ナノフォトニック集光体の効率の最大化を図るため、レート方程式を用いてQDLとQDSの混合比についての解析を行い、その後QDとしてZnOを用いて、QDの混合比率依存性について検討を行った。 また、光異性体について、近接場光励起による電子状態の第一原理計算も行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、ナノフォトニック集光体の効率の最大化を図るため、レート方程式を用いてQDLとQDSの混合比についての解析を行い、その後QDとしてZnOを用いて、QDの混合比率依存性について検討を行った。 QDLとQDSの個数の合計を10個としてレート方程式を用いて解析を行った。計算では、同じエネルギーレベルにあるものはすべて結合するとした。その後、混合比を変化させ、それぞれ緩和時間を求めた。その結果、QDSの数が増えると緩和時間は増大した。この結果は、QDLの個数に対しQDSの個数が少ないと、QDLの遷移が埋まってしまい、QDSからQDLへのエネルギー移動が制限されたことが原因かと思われる。 次にゾルゲル法を用いて寸法3.0nm(QDS)および4.5nm(QDL)のZnO QDを作製した。得られたQDに対して、He-Cdレーザ(波長325nm)を用いて発光スペクトルを測定した。まずQDS、QDLのみのスペクトルを計測したところそれぞれ3.6、3.44 eV近傍にピークを持つスペクトルが得られた。次にQDSとQDLの混合比を変えることでスペクトルを計測した。その結果QDSの個数をQDLの4倍として混ぜることで最も高い発光強度が得られることが分かった。また、QDSの個数をさらに増やしたところ、発光強度の低減が見られ、これは、レート方程式の結果で見られたQDLの準位が飽和したことによる効果であると考えられる。 アゾベンゼンについて近接場光励起による第一原理計算を行った。その結果、多極子遷移(波数励起に対応)が得られることがわかった。遷移強度を求めると伝搬光だけの場合の50倍以上の励起が得られることが分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた結果を元に大小QDと光硬化樹脂を混合し、光照射後に大QDのスペクトル強度増大が最大となるQDの割合を最適化する。ナノフォトニック集光体が動作していることを実証するために、ナノフォトニック集光体とアゾベンゼンを結合させ、アゾベンゼンの近赤外光による異性化が得られることを実証する。 また、第一原理計算についても、二倍波励起を効率的に起こすための配置の最適化を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の中、出張による旅費支出がなくなったこと、また、コロナ禍で共有設備が停止し、そのための利用料な当初の予定よりもすくなかったことなどにより次年度使用額が生じた。引き続き出張が制限されると思われるが、その分を光学部品やナノフォトニック集光体の分析費用(外注による透過電子顕微鏡分析費)にあてること、また成果発表によるオープンアクセス費用などに使用する。
|