研究課題/領域番号 |
20K21119
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
宮町 俊生 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (10437361)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | 走査トンネル顕微鏡 / 近藤効果 / トポロジカル絶縁体 |
研究実績の概要 |
SmB6は極低温領域で強い電子相関(近藤効果)によって金属-絶縁体転移を起こす近藤絶縁体である。近年、SmB6は新奇なトポロジカル物性を発現することが理論予測され、トポロジカル近藤絶縁体(TKI)として活発に研究が行われている。これまでに研究代表者は大面積で均一なSmB6(001)表面を作製するための表面処理条件をSTM, LEEDによる表面構造観察により明らかにし[T. Miyamachi et al., Sci. Rep. 7, 12837 (2017).]、その上に作製した磁性単一原子とSmB6の磁気相互作用をSTMによる分光測定から原子スケールで調べてきた。本研究ではさらに、構造制御したSmB6(001)表面上の磁性単一原子に発現する近藤共鳴状態をSTM分光測定により調べることにより、SmB6のトポロジカル表面状態発現機構の解明に取り組む。本年度は、新規SmB6(001)表面を作製するため、構造と表面電子状態の加熱温度依存性を詳細に調べた。結果、加熱温度の上昇に伴いSmB6(001)表面上にはこれまでに報告例の無い(3×1)表面再配列構造が新たに観測された。新たに得られた(3×1)- SmB6(001)表面に対してSTMを用いた準粒子干渉計測を行った。準粒子干渉計測はトポロジカル絶縁体に多く用いられ、試料表面の散乱体によって誘起される電子状態の空間変調をフーリエ変換して得られる弾性散乱ベクトルのエネルギー分布から占有・非専有状態のバンド分散を議論可能である。結果、(3×1)- SmB6(001)表面で観測されたトポロジカル表面状態は正方格子を持つSmB6(001)表面や、近年先行研究で報告された(2×1)-SmB6(001)表面のトポロジカル表面状態とは異なることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は新たに作製した(3×1)表面再配列構造を持つSmB6(001)表面の電子状態を調べるため、STMによる準粒子干渉計測を行い、波数空間におけるSmB6(001)表面のバンド分散が表面再配列によってどのような変調を受けるかを調べた。結果、これまでに報告されている(2×1)- SmB6(001)表面とは異なる分散を示すことが明らかとなり、トポロジカル表面状態を表面再配列によって制御できることが示唆された。得られた研究成果が国内外で学会発表を行った。並行してSTM装置の改良に取り組み、今年度は試料準備槽にイオンポンプを新たに導入し、SmB6(001)表面のさらなる清浄化が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者はSTMを用いて(1)SmB6(001)表面上に作製した磁性単一原子の近藤共鳴状態がSmB6のトポロジカル表面状態に及ぼす影響と、(2)SmB6の表面再配列構造の違いによってトポロジカル表面状態が変調を受けることを明らかにしてきた。今年度はこれまでに得られた研究成果を融合し、構造制御によってトポロジカル表面状態が変調されたSmB6(001)表面と磁性単一原子の近藤共鳴状態の競合をSTMにより明らかにしていく。得られた研究成果は国内外の学会で発表を行うとともに、実験データの解析がまとまり次第、随時学術雑誌に発表していく。
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