研究課題
極低温領域で強い電子相関によって金属-絶縁体転移を起こすSmB6は近年、トポロジカル絶縁体であると理論予測され新奇な量子現象の発現が期待されている。本研究ではSmB6(001)表面に磁性Co単一原子を作製し、両者の間に働く磁気相互作用を利用して近藤効果(強い電子相関)がSmB6のトポロジカル表面状態の発現に及ぼす影響を原子スケールで明らかにすることを目的とする。本年度はまず、STM装置の改良に取り組み、電子ビーム蒸着源を用いたその場蒸着により磁性Co単一原子をSmB6(001)表面上に作製できるようにした。Co単一原子がSmB6の近藤共鳴状態と表面電子状態に及ぼす影響を明らかすることを目的に、加熱温度を精密制御してp(1×1)領域とc(2×2)領域が共存したSmB6(001)表面を作製した。そして、それぞれの領域上にCo単一原子を吸着させてSmB6との磁気相互作用をSTM分光測定によって調べた。実験ではまず、Co単一原子吸着前のp(1×1)-SmB6(001)表面とc(2×2)-SmB6(001)表面のSTM分光測定を行った。スペクトル形状や近藤効果に由来するエネルギーギャップの大きさが異なることが示され、表面構造の違いによって電子状態、特に電子相関の様子が大きく変調を受けることがわかった。次にCo単一原子の電子状態を調べた。結果、Co単一原子のフェルミ準位近傍のSTM分光スペクトルはファノ関数で再現されたことから近藤共鳴状態が形成されていることがわかった。また、p(1×1)領域とc(2×2)領域上ではスペクトルの形状が異なり、さらにCo単一原子周辺のSmB6電子状態の空間変調の様子にも違いが観測された。SmB6(001)表面の構造の違いによってCo単一原子との相互作用強度が異なることが示唆される。
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