研究課題/領域番号 |
20K21124
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安井 隆雄 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (00630584)
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研究分担者 |
夏目 敦至 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (30362255)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | ナノワイヤ / 細胞外小胞 / T細胞 / 腫瘍傷害性 / 人工リンパ節 |
研究実績の概要 |
本研究は、ナノワイヤ上で捕捉するエクソソームより、免疫細胞の傷害性を活性化させ、治癒困難な悪性脳腫瘍の新規治療法として大きなブレークスルーをもたらす斬新な免疫療法の創出を目指した。エクソソームは各種細胞から分泌され、細胞の各種情報となる核酸を内包している。特に、がん細胞が分泌するエクソソームは、がん由来のDNA、RNA、microRNAなどの核酸情報が内包されており、その中にはがん特異的なネオアンチゲンをコードする核酸も含まれると考えられる。申請者はこれまでの研究において、ナノワイヤを用いることでエクソソームを濃縮捕捉することに成功している。本研究においては、このナノワイヤによるエクソソームの濃縮捕捉の特徴に着目し、ナノワイヤによるがん由来のエクソソーム内部情報の濃縮と、それら濃縮情報による体外での腫瘍特異的免疫細胞を効果的に活性化する「人工リンパ節」を着想した。中枢神経系には所属リンパ節がなく、免疫応答が起こりにくい環境であり、各種免疫療法の効果は限定的であるが、免疫細胞が免疫反応を学習することができる場「人工リンパ節」を対外でナノワイヤによって創造する発想の転換により、斬新な免疫療法を創出し、治癒困難な悪性脳腫瘍の新規治療法に大きなブレークスルーをもたらす。本年度は、申請者独自の細胞外小胞の網羅的捕捉・miRNA抽出技術・機械学習技術を駆使し、脳腫瘍vs.非がんドナーの尿中miRNA群より高い診断率・感度・特異度を達成し、脳腫瘍に由来する細胞外小胞に脳腫瘍特異的な核酸情報が存在することを確認した。また、研究分担者と共同で、マウス膠芽腫細胞株(GL261)の培養、並びに、培養液(conditioned medium)に含まれる細胞外小胞のナノワイヤ上への捕捉に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究開発において、申請者独自の細胞外小胞の網羅的捕捉・miRNA抽出技術・機械学習技術を駆使し、脳腫瘍vs.非がんドナーの尿中miRNA群より高い診断率・感度・特異度を達成し、脳腫瘍に由来する細胞外小胞に脳腫瘍特異的な核酸情報が存在することを確認した。各ドナー100人ずつより抽出されるmiRNAをマイクロアレイにより発現量検出し、それぞれのmiRNAプロファイルの交差検定を50回繰り返した結果、脳腫瘍関連miRNAを2500種から50種程度を選び出した。これら50種は200人の共通発現miRNAではなく(例:Aさんは40種発現・Bさんは30種発現)、50種の中から組み合わされる特定のアンサンブルが脳腫瘍/非がんの識別に関与していることが判明した。また、腫瘍患者の尿中miRNAが腫瘍細胞からも発見され、体液中のRNA分解酵素の役割を考慮すれば、腫瘍関連miRNAは細胞外小胞などにより血液循環を経て尿中まで到達していること、特定のmiRNAアンサンブル情報を保持する細胞外小胞が存在することを明らかとした。続いて、腫瘍由来細胞外小胞を効率よく捕捉し、かつT細胞の培養可能なナノワイヤ空間(人工リンパ節)の開発に着手した。研究分担者と共同で、膠芽腫細胞株(GL261)の培養に成功した。また、マウス膠芽腫細胞株の培養液(conditioned medium)に含まれる細胞外小胞のナノワイヤ上への捕捉に成功した。さらに、OVA特異的T細胞受容体を持つC57BL/6マウス(OT1)由来のCD8陽性T細胞の共培養にも着手している。これらの成果より、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、昨年度の研究をさらに推進すべく、昨年度に引き続き以下の1-4を行う。 1.マウス膠芽腫細胞株(GL261)の培養と、2. 得られた培養液(conditioned medium)に含まれるエクソソームをナノワイヤ上に捕捉については、すでに成功しているため今後も継続して実験を行い、平行して3と4を今後は中心に行う。まずは、tet-onシステムでのオボアルブミン(OVA) 抗原の発現導入を行い、オボアルブミン(OVA) 抗原を強制発現させたC57BL/6マウス膠芽腫細胞株(GL261)の培養を達成する。その後、3. OVA特異的T細胞受容体を持つC57BL/6マウス(OT1)由来のCD8陽性T細胞の共培養を完遂し、4. 共培養によって細胞外小胞を取り込むT細胞の細胞障害性の評価へと移行する。共培養した or していないT細胞を用いて、細胞周期解析、RNA sequenceによる発現解析を行うとともに、GL261細胞株への細胞障害性をin vitro、in vivo実験で検討する。発現解析の結果から同定した活性化経路への阻害剤などを投与することで、T細胞への細胞外小胞の取り込みが変化するかを確認する。最終的には、ナノワイヤ上に網羅的に捕捉する腫瘍由来細胞外小胞によるT細胞の腫瘍傷害性の変化へと推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年10月、GL261マウスグリオーマ細胞に、既存のオブアルブミン(OVA)導入ベクターにて、OVAの発現を試みた。OVAによる毒性が高く、GL261細胞が致死的になった。そこで、tet-onシステムでの発現導入を試みることにした。2020年12月、国立がん研究センターの共同研究者を通じて、米国ハーバード大学からtet-onシステムを譲り受けることになった。MTA契約の締結がコロナ感染拡大を理由に2021年2月と遅延した。その後、システムを送ってもらうことになっているが、2021年3月末現在、まだ研究材料が入手できていない状況である。したがい、研究は新規の試料が入手できず、2020年度の予算は繰り越すことになった。
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