研究実績の概要 |
生体膜の基本構造である脂質二重膜は、両親媒性の脂質分子が水中で形成する自己組織化構造であり、その物性や相転移・相分離は水溶液中のイオンによって強く影響される。流動状態にある水溶液中の脂質二重膜内におけるイオンの配位部位と結合定数を水中X線吸収分光(XAS)法によって実験的に決定し、第一原理計算に基づいて検証するのが本研究の目的である。 XAS計測は分子研放射光施設UVSOR BL-3Bで行った。代表的なリン脂質であるdioleoylphosphatidylcholine (Dioleoyl-PC)の二重膜を初年度に確立した実験条件で水中XAS用セルの内壁に形成し、透過法によってO-K端XAS計測を行った。531-533 eVの範囲にDioleoyl-PC内に存在する複数の異なる酸素原子に由来する成分が検出された。リン酸基(PO4-)およびカルボニル基(C=O)を持つDioleoyl-PCに対し、それぞれPO4-とC=Oのみを持つDiether-PC, Digalactosyldiacylglycerolと比較することで、Dioleoyl-PCのXAS O 1sスペクトルに含まれる成分を帰属した。Na+濃度の異なる緩衝液中で測定したXASスペクトルの結果から、これらの成分比がNa+濃度に依存して変化することを明らかにした。また、X線入射角度を変えたXAS測定を行い、PO4-, C=O結合の配向およびこれらへのイオン濃度依存性についての情報を取得しうることが示唆された。 まだ、水+脂質二重膜系に電解質を加えて分子シミュレーションを行うための相互作用パラメーターを、フラグメント分子軌道(FMO)による第一原理計算に基づいて用いて設定した。電解質存在下での粗視化シミュレーション(DPD)および得られた結果についてのリバースマップを行った。
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