研究実績の概要 |
有機結晶やポリフッ化ビニリデンなどの高分子などの有機強誘電体開発に関する研究は古くから行われてきた。しかしながら、これまで報告された有機強誘電体の分子双極子間の相互作用は弱く、電場により配向した分子双極子の和に基づく分極の大きさは、~0.2μC/cm2程度の値である(例えばポリフッ化ビニリデン高分子)。この値は、ペロブスカイト構造を持つ金属酸化物であるチタン酸バリウム等の値(~20μC/cm2)に比較すると二桁小さい。このため、有機強誘電体の分極を増強させる新しいアプローチが望まれている。本研究では、分子双極子がsp2炭素帯構造に非対称に高密度に連結した新しいナノ炭素構造を合成し、分子双極子とπ電子相互作用により相乗効果が期待される新しいモデルを提案し、実証することを目的とする。この新しい有機強誘電体のモデルとして、ベンゼン(六員環)を一次元に繋いだ炭化水素鎖であるグラフェンナノリボン(GNR)のエッジに電子受容体や電子供与体を付与した電子的非対称型GNRを提案する。このモデルにおいては、エッジに存在する分子双極子がGNR帯のπ電子と相互作用することにより、1本の分子鎖内では双極子が相乗的に相互作用し合うことにより大きな強誘電性が期待される。この構想の実現ために、我々が世界に先駆けて見出した“生物模倣触媒作用”(H.Sakaguchi, et al., Nature Chemistry, 9, 57 2017)によるGNR気相表面合成法において核心的役割を果たした炭素骨格をベースにして電子供与体・受容体を非対称に結合させた“非対称Z型前駆体”を設計し、大きな強誘電性を持つ非対称型GNRを大量に合成する。
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