研究課題/領域番号 |
20K21130
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤田 克昌 大阪大学, 工学研究科, 教授 (80362664)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 2光子重合 / マイクロマシン / 生体適合材料 |
研究実績の概要 |
本年度は、可視光2光子造形装置による各種生体適合材料の微細構造体の造形条件の把握と、造形した微細構造への振動付加、およびそれによる微細構造体の形状変化の観察装置の開発を行った。 2光子造形装置に顕微ラマン分光装置を組み込み、光照射後の材料の変化(重合反応、損傷)を観察できる、造形/評価一体型の光学システムを構築した。光造形用の光源としてモードロックチタンサファイアレーザーの2倍波(波長400nm)を、ラマン分光用の光源として532nmのCWレーザーを用い、試料中の同一箇所へ集光し、光造形/ラマン分光が可能な光学システムを構築した。材料にはPEGを用い、異なる光強度における重合の様子を、ラマン散乱スペクトルの変化により定量評価し、使用する材料に最適な露光量を選ぶための手法を確立した。開発した手法を用いて、コラーゲン等の生体分子への光重合反応の評価を開始した。 2光子重合により作製した微小構造体に対して振動を付加し、その形状変化を観察するシステムを構築した。ピエゾによる振動しを顕微鏡ステージに設置し、その周波数と振幅を制御しながら、高速カメラにより明視野顕微鏡観察が可能な光学系を導入した。構築したシステムを用いて、数から数十ミクロンの棒状構造体に振動を付加した際の形状変化を録画し、その結果を画像処理をすることにより、構造体の形状変化を定量的評価した。その結果、振動の付加による構造体の形状変化を確認することができ、また構造体の振動の振幅と付加した振動周波数の関係を求めることができた。また、振動付加の方向により、構造の振動状態が大きく影響される結果となったため、年度以降は、付加する振動をより高度に制御できるシステムを構築する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに本研究の遂行に必要となる2光子重合状態の物理化学的評価と、2光子造形された微細構造物の構造変化の顕微観察とを可能とする装置の開発を進めることができた。 2光子重合状態の物理化学的評価については、従来開発してきた2光子重合装置に、ラマン分光光学系を組み込むことに成功し、材料の光重合材料の評価を簡便かつ定量的に評価できるようになった。これにより、これまで造形条件の導出が難しかった生体材料に対しても、重合度のその場での評価を通して、容易に造形条件を把握できるようになった。これまでは電子顕微鏡を用いた評価が一般的であったが、それに比べて格段に迅速な評価方法を実現できた。また、開発した装置を用いて、実際に、生体材料の重合度の評価できることを確認できた。 加えて、造形した微細構造体へ、様々な周波数の振動を与え、その形状変化や運動の様子を高速に観察するシステムの開発も順調に進めることができた。本研究では生体内でマイクロマシンを駆動するための微細形状を構築するため、構造体の光造形とその評価を繰り返す必要がある。開発した装置は水中の試料を光学的に高速観察することができるため、微細構造の力学的特性を迅速に定量評価することが可能となる。撮像された微細構造の運動の様子を評価するための画像処理法も開発した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度では、2光子重合状態の物理化学的評価と、2光子造形された微細構造物の構造変化を顕微観察するための装置の開発を行った。それぞれの装置開発において、材料評価および微細構造の運動評価について、さらに必要となる評価要素も見いだすことができた。そこで、次年度以降は以下のような機能追加を行い、生体内で駆動可能な微細構造体の開発を進めていく。 2光子重合状態の評価に関しては、材料の物理化学的評価に加え、重合して作製された構造体の力学的評価も必要であることが見いだされた。そこで、ブリルアン散乱分光光学系を前年度に開発した2光子重合-ラマ分光システムに組み込む。これにより、光重合反応、ラマン分光、ブルリアン分光をリアルタイムにその場で行うことができ、重合度とその機械的な適合性を同時に評価し、微細構造体を形作るための材料を最適化できる。 微細構造物の構造変化の顕微観察装置については、より高度な振動制御を可能とする機構を組み込む。具体的には、振動の方向を含めた複数の振動パラメータを変化させながら微細構造体の運動制御を可能とし、様々な条件での微細構造体の形状変化/運動を記録できるシステムとする。また周囲に存在する水の動態についても評価する必要があるため、これを可能とする暗視野撮像システムも組み込む予定である。
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