今年度はメタ表面上に転写した2次元原子層材料(遷移金属ダイカルコゲナイド TMDC)の励起子発光ダイナミクスの研究を主に行った。TMDC 励起子発光は研究が始まった 2010 年代前半には超高速発光と言われていた。発光寿命がサブピコ秒という報告例もあり、2次元励起子の巨大な電気双極子遷移と当初主張されていた。もしこの主張が事実であれば、100 GHz を超える超高繰り返し発光源となる。また、2010 年代前半は TMDC 単原子層は数十ミクロンサイズの三角形状であった。つまり、マイクロドメインに励起される励起子を観察していた。 今回の研究では、次の2点で新規性があった。1つは単原子層がセンチメートル平方サイズの連続膜であったこと。もう1つは発光材料(蛍光分子や量子ドット等)の発光を著しく高輝度化できるメタ表面を用いて、その上に TMDC 原子層材料を転写した複合系を作製したことであった。発光を高輝度化できるメタ表面は研究代表者の 2014-2018 年の研究のなかで考案、実証されてきたもので、プラズモン・光導波路モードハイブリッドメタ表面では蛍光分子の発光強度を参照シリコン基板状より 2600 倍以上高輝度することができ (Chem. Commun. 2015)、全誘電体メタ表面においては 1000 倍を超える発光高輝度を実証してきた (Appl. Sci. 2018)。全誘電体メタ表面と TMDC 単原子層の複合系の結果について述べると、シリコンナノ円柱周期列からなる全誘電体メタ表面上で、メタ表面エリア外の TMDC と比べて、最大 300 倍の発光強度増強を観測した。メタ表面の共鳴を TMDC 励起子発光波長に合わせ、共鳴増強効果を活用した。また、共焦点発光像を光子数計数検出器を使って取得し、解析した結果、単一コヒーレント発光モードであることを強く示唆する結果を得た。
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