本研究の目的は、従来は個別に行われていた小角X線散乱測定とX線吸収スペクトル測定を同時かつ高速に測定する技術の開発である。これにより、ナノスケール構造と注目元素の化学状態・原子スケール局所構造情報の同時高速取得(時間分解能10~100ミリ秒)を可能にし、反応中の触媒ナノ粒子のナノスケール構造情報および活性元素の化学状態・局所構造の同時観察察などのオペランド・マルチスケール観察法として、幅広い分野への波及を狙う。本年度は、開発した波長分散型小角X線散乱計測システムを用いて取得した小角X線散乱スペクトルから、ナノ粒子の形状、粒子サイズおよびサイズ分布を定量評価するためのソフトウェアの開発を行った。小角X線散乱スペクトルと同時に取得した透過X線吸収スペクトルからKramers-Kronigの関係式によりX線異常散乱項の実部を取得し、これを用いて2次元検出器上の散乱分布を計算することに成功した。このソフトを前年度に取得した、Ptナノ粒子、およびPt被覆したPd(Pt@Pd)ナノ粒子からの実験データに適用し、Ptナノ粒子においては、粒子形状、粒子サイズおよびサイズ分布、Pt@Pdナノ粒子においては、これらの情報に加え、Pt被覆層の厚さを抽出することに成功した。また、同時に取得した透過X線吸収スペクトルの解析により、Pt-Pt原子間距離、Pt-Pd原子間距離、Pt-O原子間を抽出することに成功した。露光時間100ミリ秒で取得したデータの解析が可能であることを確認し、当初の目的であった、ナノスケール構造と、注目元素の化学状態・原子スケール局所構造情報の同時高速取得を達成した。
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