研究実績の概要 |
本研究では、結晶構造の不均一性によりバルク測定が困難であった鉄系超伝導に対して、高感度なカロリメータによる精密比熱測定によりそのバルク電子状態を明らかにすることを目的とした。特に、結晶サイズが数十から数百マイクロメートル程度のマイクロ単結晶試料を対象とした精密比熱測定を実現し、回転対称性の破れた電子状態や超伝導状態の理解を試みた。具体的には、化学組成不均一性により比熱測定が困難であった鉄系超伝導体Fe(Se,S)のSが17%以上の領域や、Fe(Se,Te)を対象とした測定を実施した。Fe(Se,Te)においては、Teが10-40%程度の組成は結晶内に相分離が生ずることが知られており、均質な単結晶試料が得られていなかった。これに対して、化学蒸気輸送法により単結晶試料作製を試みたところ、化学組成が均質なマイクロ単結晶を得ることに成功した。得られた様々な組成の試料に対して電気抵抗測定や比熱測定を行うと、Fe(Se,Te)においては、そのバルクの超伝導転移温度はTe量に対して下がり、Te30%程度で最小になった後に上昇するということが分かった。更に、FeSeにおける90Kで生ずる構造転移(ネマティック転移)がTe45%程度で消失することが分かった。このFe(Se,Te)に対して比熱測定を行ったところ、電子比熱係数がTe量を増やすと単調に増大することが分かった。さらに、超伝導状態における低エネルギー励起がTe量の増大に伴い非単調に変化することが分かった。このことにより、Te置換に伴い超伝導の対形成機構が変化していることが示唆される。
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