研究課題/領域番号 |
20K21141
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
高橋 康史 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (90624841)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | ナノピペット / 走査型イオンコンダクタンス顕微鏡 / Operando計測 |
研究実績の概要 |
細胞膜表面のイオンチャネルは、イオンの効率的なトラッピング(静電相互作用)、フィルタリング(イオンとカルボニル基との分子間相互作用による効率的な脱水和)、輸送(双極子モーメントを利用)により、細胞内のイオン濃度を調整している。このようなイオンチャネルを1分子レベルで計測できる手法がパッチクランプである。パッチクランプは、溶液中でガラスピペットと細胞をタイトに接触させて、非常に高い密閉状態を形成し、細胞膜表面に存在するイオンチャネルを移動するイオン由来の電流を直接計測する。 リチウムイオン2次電池の負極材料表面に形成されている被膜(Solid Electrolyte Interface:SEI)においても、細胞同様に、溶媒和されたLi+の脱溶媒和が行われ、材料内へLi+が挿入される。この脱溶媒和過程が充放電過程における律速段階となっていることが明らかにされてきた。このように、リチウムイオン2次電池においてSEIは、イオンチャネルと非常に似た役割を担っているが、その電気化学特性は平均化された情報のみであり、時空間的な情報が欠如していた。 走査型プローブ顕微鏡は、尖った探針を利用して、表面形状や特性をナノスケールでマッピングする技術である。走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)は、パッチクランプで利用されるガラスピペットを探針に用いる。SICMは、生細胞表面の形状情報とともに局所的なイオン電流の計測が可能であり、イオンチャネルのマッピングに有効である。本研究では、SICMを蓄電材料の計測用に改造し、SEIのイオン伝導特性のイメージングによる評価や、充放電流のイオン濃度プロファイルの変化をマッピングする。このことで、脱溶媒和に最適な添加剤の探索や、高速充放電中のイオンの偏りなど、SEIの詳細な理解と設計指針の提示に資する分析技術を確立する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グローブボックス内で走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)計測が可能なシステムを構築し、ハードカーボンの合材電極上の形状イメージングに加え、充放電の際のイオン濃度プロファイルの変化に起因したSICMのイオン電流の変化を観察することができた。さらに、ハードカーボンのCV計測中に形成されるSEI(SolidElectrolyte Interphase)の形成と消失に伴う高さ変化を捉えることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでカーボン負極の計測を中心として行ってきたが、正極材料やセパレータに関しても同様に計測を行う。特にセパレータに関しては、金属Liを負極に利用する際にキーとなる部分であり、電流の不均一性がデンドライトの形成と密接にかかわっていることが予想される。また、有機電解液だけでなく、デンドライトの形成が課題となっている水溶液系の蓄電材料に関しても同様に計測を進めていく。
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