研究課題/領域番号 |
20K21144
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荻 博次 大阪大学, 工学研究科, 教授 (90252626)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 単結晶グラファイト薄膜 / 振動子センサー / ピコ秒レーザー超音波 / バイオセンサー |
研究実績の概要 |
本課題では単結晶グラファイトナノ薄膜を用いた多チャンネル超高感度振動子バイオセンサーの開発を目的とする。振動子センサーは代表的な無標識バイオセンサーであり、計測時間が短く、創薬プロセスに必要とされる生体分子間の親和性評価を可能とする。 本年度では、多数の微小孔を有するシリコン基板およびガラス基板上にグラファイト薄膜振動子を転写し、多数の自立薄膜であるグラファイト振動子薄膜部位を作製するプロセスを確立した。そして、グラファイトのc面と強い相互作用を示すリンカーであるピレンブタン酸スクシンイミジルエステル (PASE) を固定化した。ピレン部位がグラフェンとπ-πスタッキング結合を形成し、スクシンイミド部位が、タンパク質のアミノ基と結合することから、グラファイト表面にリガンドタンパク質を固定化することが可能となる。ただし、固定化効率は、PASEの溶媒や濃度、固定化時間、固定化温度等により変化するため、これらのパラメータを様々に変化させ、プロテインAが修飾された金粒子を固定し、AFMにより固定化された金粒子をカウントすることにより固定化効率を評価し、最適な固定化条件を見出すことに成功した。 さらに、ピコ秒レーザー超音波スペクトロスコピー法を適用するため、本プロジェクトに専用の光学系を構築し、1μm程度の局所領域において、超高周波の振動を励起・検出することのできる計測システムを確立することに成功した。 そして、グラファイト表面にモデルリガンドとして黄色ブドウ球菌プロテインAを固定化し、牛血清アルブミン によるブロッキング後、モデル標的タンパクタンパク質として、ウサギIgG溶液を作用させ、その後、ピコ秒レーザー超音波スペクトロスコピー法によりナノ薄膜振動子の共振計測を行ない、本手法の有効性を立証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単結晶グラファイト薄膜振動子の基板への転写法の確立、多チャンネル微小薄膜振動子の作製、顕微ピコ秒レーザー超音波スペウトロスコピー計測システムの開発完了と実際の計測への移行、実際のバイオアッセイへの適用、等が順調に進行しており、当初の予定通りプロジェクトは進行している。
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今後の研究の推進方策 |
計測データのノイズ軽減のために、光学系をさらに改良し、より微弱な応答変化を検出可能とし、実際のバイオマーカータンパク質の検出実験を行う。また、グラファイト薄膜による振動計測において、質量負荷による周波数低減だけでなく、タンパク質分子そのもののフォノン振動と考えられる振動成分も検出されていることから、これらをさらに深く探究し、光計測ではカバーすることのできないギガヘルツ帯域の分光法(あるいは分音法と呼ぶべき)を確立したい。
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