研究課題/領域番号 |
20K21148
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
倉橋 光紀 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主席研究員 (10354359)
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研究分担者 |
後藤 敦 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, グループリーダー (30354369)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 水素 / 核スピン / 表面 / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
NMR信号強度は対象原子核の核スピン偏極度に比例するが、室温、数テスラの実験条件では核スピン偏極度が10-5程度と低いため、通常法による1原子層相当試料のNMR分析は困難と考えられている。一方、対象原子の核スピン偏極度を向上させNMR信号を増強させる超偏極NMR法が知られている。本研究は、水素原子核をスピン偏極させた分子ビームを表面に照射して分子を吸着させ、プロトンNMR信号を検出する方式での超偏極NMR実験の実現を目指すものである。計画2年目の2021年度は、NMR測定系、核スピン偏極分子ビーム開発に関して以下の研究開発を実施した。 (i)NMR測定系開発:真空側にRFコイルを設置したICFフランジを製作し、強磁場印加可能な超高真空容器に設置した。また、試料をRFコイル空隙に微動位置制御して設置できる機構を製作した。本装置を用い、磁場4テスラ、10-6Pa台の真空環境下で、標準試料のプロトンNMR信号を取得できることを確認した。 (ii)核スピン偏極ビーム開発:液体窒素温度で表面に偏極メタン分子層を形成させ、プロトンNMR測定を行う実験を計画している。この実験に用いるメタンのH核スピン偏極ビームを生成させる実験を、別装置の偏極分子ビームラインを用いて実施した。分子線ノズルの窒素冷却とメタン/アルゴン混合ガスの断熱膨張により運動エネルギー10meV程度の超音速偏極メタンビームを生成できることを確認した。NMR実験に使用する六極磁子、分子線ノズルおよび温度調節機構の製作、真空排気系の準備も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
超高真空下に設置したバルク試料に対するNMR信号を、超伝導磁石の最大磁場付近の共鳴周波数において取得することができた。RFコイルと高周波回路を近接させ、かつ装置ベーキング時に回路部品をチャンバーから容易に脱着できる装置を製作できた。NMR検出部と組み合わせて使用予定の核スピン偏極メタンビームに関しては、別装置での生成条件最適化と、NMR実験用に使用する分子線ノズル製作、ビーム生成に使用する真空機器・部品の準備までは行うことができたが、ビーム源の超高真空NMR装置への接続までは到達できていない。
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今後の研究の推進方策 |
核スピン偏極ビーム源をNMR計測部に接続させ、試料温度100K程度、超高真空環境で偏極ビーム照射表面のNMR実験が行える環境を構築する。バルク標準試料を用いたNMR検出系の調整も適宜行い、信号検出に向けた装置改良を適宜行う。NMR共鳴線の線幅は磁場均一度が高いほど狭小化されるため、試料近傍に補正コイルを設置し、試料位置での磁場均一度を向上させることも試みる。また、ビームラインにスピン反転器を設置し、入射核スピンの向きを変えたときのNMR信号変化を調べる実験も検討する。別装置で実施している状態選別ビーム表面反応実験用ビームラインを用い、ビーム強度を増強させる試みも継続して行う。また水分子や揮発性炭化水素分子の核スピン偏極ビームを生成し、これをNMR実験に利用することも試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度製作したNMR実験装置用超音速分子ビーム源は、既存の冷却マニピュレータを改造して製作したため費用を低減でき、予定していた超電導マグネット冷凍機メンテナンスに関しては設備維持管理に関する別予算の支援を受けて行うことができた。生じた予算残額は偏極ビーム源のNMR装置への接続に必要な真空配管部品、低温温度調節機器、NMR測定部品、ターボ分子ポンプ追加購入、制御用PCの整備に使用予定である。
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