研究課題/領域番号 |
20K21149
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研究機関 | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発 |
研究代表者 |
杉山 純 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 特任研究員 (40374087)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | ミュオンスピン回転緩和 / 負ミュオン / 拡散 |
研究実績の概要 |
遷移金属等の常磁性元素を含む物質について、それらに固有なLi+(Na+, K+)のイオン拡散係数(自己拡散係数)を測定する手法は申請者の開発した「正ミュ オンスピン回転緩和(μ+SR)」法しかない[PRL103, 147601 (2009)]。しかしμ+の質量はプロトンの1/9なので、物質によっては室温以上の高温域でμ+自身が動き、正確な拡散係数を求められない可能性もある。そこで負のミュオンを用いるμ-SR法による核磁場計測手法を開発した[PRL121, 087 202 (2018)]。負ミュオンは物質中では重い電子として振る舞い、原子核に捕獲される。つまり、物質の分解温度付近でも原子核位置という固定点から、周辺のイオンの運動に伴う核磁場の揺動を捉える。 このような背景の元に、今年度はJ-PARCにて、スピネル系負極材料のLi4Ti5O12について、その拡散挙動をμ+SRとμ-SRで調べた。その結果、両手法で求めた核磁場揺動の温度変化はほぼ同様だった。すなわち、μ+SRで求めたLi4Ti5O12の拡散係数は、Li+の拡散によることが実証された。引き続き、スピネル構造の正極材料LiMn2O4とLi[Ni1/2Mn3/2]O4についても、同様の測定をJ-PARCと英国ISISで準備中である。 またμ-SR解析の基礎データとしてLi金属の測定をJ-PARCに提案し、ビームタイムを認められた。従来の測定報告は室温のみなので、低温側での挙動の変化を調査する予定である。 データ解析についてはワークステーションを購入し、より高速な計算環境下でμ-SRスペクトルの解析を行える体制を構築しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ渦のために渡航しての海外施設での実験は不可能だったが、各施設の担当者あるいはスウェーデンの研究者との共同による、リモート実験により、ほぼ予定通り研究を遂行することができた。具体的には: ・μ-SR実験用のビームタイムを順調に確保している。 ・スピネル系材料とLi金属へ展開中である。 ・複数の寿命成分を含むμ-SRスペクトルを解析するための計算環境を整えつつある。
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今後の研究の推進方策 |
・Li4Ti5O12のμ-SR結果を論文にまとめる。 ・J-PARCと英国ISISでスピネル系材料を対象に研究を進める。 ・J-PARCにて、Li金属のμ-SR実験を行い、基礎データを蓄積する。 ・海外施設での実験については、2020年度と同様に、リモート実験と海外研究者との共同研究を駆使して遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ渦のため海外施設利用実験と国際会議が軒並みキャンセルとなったため。2021年度後半から、徐々に常態に復すると予想しており、それに伴って順次海外渡航を伴う海外施設利用実験と国際会議への参加を再開する予定である。
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