研究課題
各種の電池内では電荷担体であるLi+・Na+等のイオンが拡散移動するので、移動のしやすさの指標である「拡散係数」を求めることは材料開発に欠かせない。特に遷移金属元素を含む正極材料に対しては、物質固有の拡散係数を測定し、横並びに比較する手法は申請者の開発した「正ミュオンスピン回転緩和(μ+SR)」法しかない。しかし、物質中に打ち込まれた正ミュオンは高温で拡散し始め流ので、正確な拡散係数を求められない。そこで拡散種の決定に負のミュオンを用いるμ-SR法を併用する。負ミュオンは物質中では重い電子として振る舞い、原子核に捕獲される。つまり、物質の分解温度付近でも原子位置という固定点から、周辺のイオンの運動を捉える。なおμ-SRの信号強度はμ+SRの約1/6なので、μ-SR測定でμ+SR並みの解析精度で結果を得るためには、36倍の統計が必要である。そこで、μ-SRで拡散種を決め、μ+SRで拡散の詳細を明らかにする「ハイブリッド測定」μ+-SRを手法として確立する。Liイオン電池の正極材料には大別して3種類の構造がある:1)オリビン構造、2)スピネル構造、3)層状岩塩構造である。これまでのμ-SR実験により、1)に属するLiMnPO4、2)に属するLi[Ni1/2Mn3/2]O4とLi4Ti5O12においては、正ミュオン(μ+SR)で観測される拡散挙動の起源がLi+拡散であることを確認した。また、6Liと自然Liのμ-SR実験により、低温(10K)までスペクトルに緩和が現れないことを見出した。これは(緩和の見られない)室温測定のみの結果から、擬似Heと見做せるミュオンLiがLi金属内を高速拡散しているとの従来予想を覆すものである。またμ-SRスペクトルの解析にも重要な知見である。このようなμ+-SRの結果については海外でも評価され、招待講演を国際会議3件・国内会議2件で行なった。
2: おおむね順調に進展している
リチウム電池の正極材料については、層状岩塩構造のLiNiO2等についてもμ-SRを測定済みで、現在測定データを解析中である。Covid-19のために英国施設の利用が制限されたが、施設研究者と欧州共同研究者と一緒にリモート実験を1回実施した。問題は英国施設の長期閉鎖のために、2021年秋から2022年秋までの1年間実験ができないことである。このため再開後つまり2022年度後期での実験を目指す。
Li電池の正極材料については一連の実験を終え、μ+SRで視る拡散種がLiであることを確認した。すなわち、Li電池正極材料については、充放電過程の拡散挙動をμ+SRで測定できることを確認した。このため、動作状態の電池内での拡散係数を求める「オペランドμ+SR」の準備を進める。一方Li電池の電解質材料、Na電池・K電池材料については、粛々とμ-SR実験を進め、従来のμ+SRで見出された拡散挙動の原因を同定する。
Covid-19とそれに伴う英国施設長期閉鎖期間の変更のため、海外出張(実験・会議)旅費がゼロだった。2022年度は海外実験(3回、スイスPSI・カナダTRIUMF・英国ISIS)・海外国際会議(イタリア開催)のための渡航が可能となると予想されるので、その旅費等に充当する。
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Zeitschrift fur Physikalische Chemie(巻数とページ番号は未定)
巻: 0 ページ: 1-18
10.1515/zpch-2021-3102
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巻: 23 ページ: 24478-24486
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https://www.researchgate.net/profile/Jun-Sugiyama