研究課題/領域番号 |
20K21152
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
門野 博史 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (70204518)
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研究分担者 |
ラジャゴパラン ウママヘスワリ 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (40270706)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | バイオアッセイ / 環境汚染 / バイオスペックル / マイクロバイオアッセイ / プランクトン / 遊泳能力 / レーザースペックル |
研究実績の概要 |
従来、環境汚染の評価は個々の化学物質を特定し生物への毒性を評価してきたが、膨大な数の化学物質に対してこのような手法は技術的にもコスト的にもますます困難となっている。これに代わって最近では個々の化学物質を特定することなく、生物を用いることにより毒性を総合的に評価するバイオアッセイと呼ばれる直接毒性評価手法が注目されている。本研究では、マイクロバイオアッセイにおいて物体像をバイオスペックル画像に変換することにより、環境条件に対する動物プランクトンの運動能力の変化を集合的に評価する手法を開発する。 従来は顕微鏡を用いて個々の個体を識別してその生存率を判定していた。本研究では、多数の動物プランクトンの集合体をサンプルとしレーザー光で照射することにより生じるバイオスペックルの動特性を利用する。動物プランクトンは光散乱体として作用し、単位時間に移動する距離を運動能力と定義すると、運動能力が高いほど対応するバイオスペックルパターンの単位時間の変化も早くなる。 実験では動物プランクトンとしてゾウリムシを用いた。環境毒性条件として塩酸(HCl)を用いて正常状態のpH7.5から全死滅する3.8まで変化させてゾウリムシの遊泳能力の変化を定量的に測定した。 バイオスペックルパターンの動特性の評価には差画像法を用いた。その結果、中性(pH7)からプランクトンが死滅するpH3.8まで遊泳活性を定量的に測定可能であることを確認した。興味深い点はpH5.5付近で正常状態よりも活性が増加する点である。これはプランクトンが悪環境条件を回避するための行動と推測された。 このように提案手法では測定領域内の個体、約2000個体を識別することなく集合体としての遊泳活性を瞬時に定量的に評価することを可能にした。本手法の利点は、光学系が単純で安価であり、微生物を単純に生死だけでなく遊泳能力の変化を詳細に観測できる点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述したように、提案手法ではプランクトンの個体をそれぞれ識別することなく集合体としての遊泳活性を瞬時に定量的に評価可能であることを基礎実験により確認した。 しかしながら、パイオスペックルパターンの解析においては当初予定していた相互相関関数による評価ではなく差画像法を用いている。これは、現在のプランクトンの培養法では個体密度が低くバイオスペックルパターンの変化が定常的でなく散発的な変動となっていることに起因している。これを回避するにはサンプルセルのギャップを大きくすることによりレーザー光の照射領域内のサンプル個体数を増加させれば良い。しかし、ゾウリムシの培養では酵母菌の錠剤を栄養物として与えておりこれが不要な散乱粒子となっている。その結果、ゾウリムシが死滅した状態でもバイオスペックルパターンの変動が生じ、これが計測感度低下の原因となった。不要な粒子の影響は、セルギャップを小さくし粒子をサンプルセルガラス表面に吸着することにより低減することができるが、サンプル個体数とのトレードオフが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
不要な散乱粒子の影響と、狭小セルの使用によるプランクトン個体数低下のトレードオフを解決するためにはできるだけ不要な散乱粒子が混入しないようにプランクトンの培養法を改良する必要がある。 ゾウリムシの培養に関しては栄養物として酵母菌ではなく緑茶などによる栄養供給が可能であることを見出しており、不要な固体粒子低減の可能性がある。 また、プランクトンとして捕食生の動物プランクトンであるゾウリムシではなく、植物プランクトンであるミドリムシの使用を検討する。ミドリムシはハイポネックスなどの散乱粒子を含まない栄養液での培養が可能である。 十分な個体数が確保出来れば、バイオスペックルパターンの動特性の解析法としてよりすぐれた相互相関法による解析をおこなう。予備実験ではそのような条件で、相互相関法により良好な解析の可能性が示されている。 最終的には、HClに換えてより実際的な環境汚染物質であるカドミウムやVOCによる汚染に対するバイオアッセイとしての有効性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
プランクトンの培養に必要となるクリーンベンチの納入が当初予定より大幅に遅れたため、理想的な培養条件が実現出来なかったことに加えて、COVID-19の影響により本研究課題に携わる担当者の研究時間が大幅に制限されたため研究計画全体に遅れが生じた。また、参加予定であった国際会議が延期された。以上の理由により次年度使用額が生じた。 次年度に関しては、実験環境が改善されており、遅れていた実験をおこない実証データを蓄積する。このために、実験補助のための謝金、学会発表、論文出版をおこなう。
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