研究課題/領域番号 |
20K21157
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
沖野 友哉 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 研究員 (40431895)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | イメージング質量分析 / 電気光学光変調器 / 偏光時間写像 / 偏光イメージセンサー / 空間投影型画像法 |
研究実績の概要 |
2020年度は、(1)空間投影型画像法のイオン光学系の設計、(2) 偏光-時間タグ付け法を用いマルチ質量イメージ計測手法の確立および(3)イベント駆動型イメージセンサーを用いたデータ量の圧縮を行った。 (1) サブnsの蛍光寿命と狭い発光波長を有する蛍光体を利用した直径40mmのMCP/phosphor検出器を導入し、この検出器に合わせたイオン光学系の設計を、イオン光学設計ソフトウェアSIMIONを用いて行った。2枚の円筒電極から構成されるイマージョンレンズと2段のEinzelレンズから構成用いることで最大倍率100倍を実現する仕様とし、直径400μmのイオン化領域において空間分解で質量スペクトルを測定するための装置を設計した。また、時間依存電圧を引き出し電極に印加する独自手法を採用することで、2枚の円筒電極から構成されるイマージョンレンズと1段のEinzelレンズから構成用されるイオン光学系で、理論空間分解能1μmが達成できることを確認した。 (2) 偏光-時間タグ付け法では、偏光イメージセンサーを用いて偏光角度を正確に測定することが重要となる。高速蛍光体付きMCP検出器は、従来のものと比べて狭い発光波長を有するため、電気光学光変調器で与えられるリタデーション量の波長依存性が無視できる。これにより、従来のphosphorとしてP47を用いた場合よりも時間決定精度が向上した。 (3) フレーム型イメージセンサーを検出器として用いた場合には、単位時間当たりのデータ量がギガバイトに及ぶ。一方、イベント駆動型イメージセンサーでは、光量の変化が有った画素データのみその位置が記録できるため、データ量の大幅な低減ができる。イオンの飛行時間情報を高速デジタイザーで記録し、蛍光輝点の位置をイベント駆動型イメージセンサーを用いて記録することで、高繰り返し光源を用いた計測を可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
偏光時間写像を用いた投影型イメージング質量分析装置では、高速蛍光体付きMCP検出器、イオン光学系および偏光時間写像系が構成要素となる。これまでに高速蛍光体付きMCP検出器の仕様に基づいたイオン光学系の設計を完了しており、設計に基づく電極系の調達後に直ちに開発装置の性能評価を行うことができる状況にある。また、当初の到達目標よりも1桁高い空間分解能と質量分解能を達成できるイオン光学系を考案した。これは、並行して研究を遂行している基盤研究(B)で得られた知見を発展させたことによるものである。 さらに、カメラのフレームレートで計測の繰り返しが制限される問題については、新たにイベント駆動型イメージセンサーを用いることで解決することができる見込みが立った。
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今後の研究の推進方策 |
偏光時間投影型イメージング質量分析装置のプロトタイプ機を今年度の設計を元に製作し、開発装置の性能の評価を行う。開発装置を用いて真空中に非揮発性の生体分子を導入するために用いられるレーザー誘起音響脱離法のメカニズムの解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で実験室内で作業ができる時間が限られたため、本研究課題を遂行する上で不可欠である高速蛍光体付きMCP検出器の仕様策定に当初の予定より時間を要したため、年度内にイオン光学系の試作ができなかった。そのため、検出器の仕様に合致したイオン光学系の設計完了後に、イオン光学系の試作費として利用する。
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