研究課題/領域番号 |
20K21159
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
新堀 雄一 東北大学, 工学研究科, 教授 (90180562)
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研究分担者 |
千田 太詩 東北大学, 工学研究科, 准教授 (30415880)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 放射性廃棄物 / 地層処分 / コンパクト化 / 不飽和層 / 乾燥過程 / 表面集積 / 析出反応 / 自己閉塞 |
研究実績の概要 |
不飽和層とは地下水によって満たされていない領域を指す。本研究では、乾燥に伴う不飽和層での物質移動と析出による止水性の動的挙動を、X線CT撮影や透水試験により定量的に整理し、それらを基に地層処分場の全体面積をよりコンパクトにできることを示す。 地層処分ではその健全性の確認のために50年間を超えて坑道が維持され、通気状態になる。従って、坑道周囲では、坑道に向けた乾燥に伴い、ケイ酸を含む塩類が乾燥面近傍に集積・析出し、人工バリアへの地下水の浸入を抑える。このことは廃棄体(4万本)のより密な定置によって人工バリアが一時的に高温になっても、地下水による人工バリアの変質を防ぎ、より小さな処分場の実現に繋がる。 本研究では、研究目的を達成するために、次の4つの検討課題を設定している。すなわち、検討課題(1):模擬多孔質体を用いた乾燥に伴う物質移動の実験的検討、検討課題(2): 実験結果に基づく、物質移動を表す数学モデルの構築、検討課題(3): 不飽和層の自己閉塞のダイナミクスの整理と各課題への反映、そして、検討課題(4): コンパクト地層処分概念の提示である。本年度では、当初の予定通り、検討課題(1)に取り組んだ。本課題では、ケイ砂の充填層に用いて、所定濃度に調整した塩化セシウム, 塩化ナトリウムおよびケイ酸ナトリウムの各溶液を模擬地下水として満たした後に充填層の上面から乾燥を進め、析出物による間隙変化をX線CT値(最小解像度20μm)より定量化するとともに、充填層の重量の時間変化から平均の乾燥速度および乾燥面での水分の見かけの物質移動係数を実験から評価した。その結果、乾燥面近傍における溶質集積により間隙率が初期の値に比較して最大で25%低下すること、また充填層の固相粒子の粒径が小さくなると見かけの物質移動係数が大きくなるがその差は小さいこと、さらに、何れの溶液においても乾燥による析出により透水係数が25%低下することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
地層処分システムの建設では多量のセメント系材料が用いられことから、地下水のpHは最大で13にまで上昇する。その場合、ケイ酸はケイ酸塩鉱物から溶出し、乾燥に伴う析出が想定される。本研究では、それを模擬するためにケイ酸ナトリウム水溶液の濃度を実験パラメータとして乾燥に伴う充填層内の析出の挙動を追跡し、前述の成果を得た。塩化セシウムおよび塩化ナトリウムの場合、充填層の透水性を評価する際の流体は、乾燥前に加えた溶液を用いたが、ケイ酸ナトリウムの場合のみ純水を流して評価し、次第に析出物が溶解することを予想した。しかし、少なくとも実験期間内は、低下した充填層の浸透性は上昇することはなく、ほぼ一定となった。このことは、析出物の溶解が直ちに進行するのではなく、浸透性の低下を一定期間維持することを意味する。地下水は、乾燥部に再び冠水する際、何れのpHにおいても溶解度に近い水溶性ケイ酸を含んでいることから、ケイ酸の析出物の溶解はさらに抑えられる。 本研究では、ケイ酸は溶液の条件により水溶性ケイ酸とコロイド状ケイ酸になることから、上述の結果を発展させ、水溶性ケイ酸およびコロイド状ケイ酸の充填層内での析出挙動も実験的に検討した。その結果、水溶性ケイ酸が析出するよりもコロイド状ケイ酸として析出する方が、透水性がより低下することが明らかになった。また、地下水には多様なイオンが存在することから、その中で主要となるカルシウム(Ca), アルミニウム(Al)およびマグネシウム(Mg)にも着目し、Caをケイ酸水溶液に加えた系、さらにそこにAlやMgイオンを加えた系において水和物としての析出物を確認することができた。これら結果は、何れも乾燥過程に伴う析出による浸透性の低下に寄与するものであり、乾燥に伴う表面への溶質の集積過程と自己閉塞現象(浸透性の低下)をさらに解明する上で重要な知見であり、当初の計画以上に進展している点と言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で述べたように、本研究では、研究目的を達成するために、検討課題(1):模擬多孔質体を用いた乾燥に伴う物質移動の実験的検討、検討課題(2):実験結果に基づく、物質移動を表す数学モデルの構築、検討課題(3):不飽和層の自己閉塞のダイナミクスの整理と各課題への反映、そして、検討課題(4):コンパクト地層処分概念の提示である。 今後の研究の推進では、当初の予定通り、令和3年度に検討課題(1)の継続および検討課題(2)を行う。そして最終年度では検討課題(1)を継続しつつ、検討課題(2)~(4)を行う予定である。特に検討課題(1)では、令和2年度に行った乾燥速度に及ぼす充填粒子径の影響について、ガラス粒子や充填粒子がない系での場合とも比較し、乾燥面への物質移動に及ぼす毛管力の影響を明らかにする。また、令和2年度では乾燥の方法として、シリカゲルを置いたデシケーター内で真空引き乾燥を行った。処分場では坑道を開いている期間(50年間あるいはそれ以上)では強制的に通気がなされることから、水蒸気圧は坑道の上流と下流では異なる。そこで、令和3年度では自然乾燥も行い、真空乾燥の場合との比較によっても上述の毛管力の影響の検討を深める。さらに検討課題(2)では、乾燥面からの水分の蒸発速度と充填層における乾燥面までの物質移動速度との関係を整理する。前者が乾燥過程において律速する場合には、毛管力による物質移動は比較的速やかに生じることから、実験的には毛管力の影響は粒子径から算出される毛管力に比較しては小さいくなる(後者の場合は逆になる)。さらに、析出物の空間的な一様性について、検討課題(1)において異なる塩濃度の実験も併せて行い、X線CT値および透水性の減少割合から考察する。これらの結果を踏まえ検討課題(2)において構築する数学モデルに反映させ、最終年度(令和4年度)において、検討課題(3)および(4)を進め、成果を取りまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 学内におけるX線CT解析などの使用料が別途支弁できために差額が生じた。 (使用計画) 次年度使用額を活用して、検討課題(1)「模擬多孔質体を用いた乾燥に伴う物質移動の実験的検討」の進捗とともに試料・薬品類を購入する計画を組んでいる。
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