研究課題/領域番号 |
20K21160
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斉藤 拓巳 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (90436543)
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研究分担者 |
熊田 高之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, リーダー (00343939)
元川 竜平 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (50414579)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 小角散乱 / 天然有機物 / 鉱物 / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
ウランやプルトニウムのような放射性核種は、主に、地下水中のコロイドに結合して移行することから、その移行挙動はコロイドとしての移行性に支配される。これまでは、有機、無機それぞれのコロイドに対して放射性核種の吸着特性が評価され、その線形和として、地下環境中における放射性核種の移行挙動が考えられてきた。しかし、土壌や深部の母岩のような実際の地下環境内では、有機及び無機の異種コロイドからなる複合コロイドが形成される。これまでの研究では、複合コロイドを形成すると、放射性核種の吸着量が、構成要素である有機・無機各コロイドに対する吸着量の線形和とはならず、劇的に増加したり、逆に、吸着しなくなるという現象が報告されている。本研究の目的は、スピンコントラスト中性子小角散乱(SC-SANS)法を用いて、有機―無機複合コロイドのナノ構造を決定し、複合コロイドに特異的な放射性核種の吸着特性を理解することである。令和2年度は、SC-SANS法の適用性を評価するために、腐植物質単体(有機コロイド母体)、アルミナ単体(無機コロイド母体)、及び、両者を共存された複合系におけるSC-SANS測定を単一の環境条件下(pH 6.4,アルミナ濃度49.5 g/L,フミン酸濃度 5.0 g/L)で行い、散乱曲線の変化を評価した.水素核偏極度に対する散乱曲線の変化分を取ることにより,アルミナ表面に吸着した腐植物質の微弱な散乱曲線をはるかに強度の高いアルミナ本体の散乱曲線から分離することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、SC-SANS法の適用性を評価するために、腐植物質単体、アルミナ単体、及び、両者を共存された複合系におけるSC-SANS測定を単一の環境条件下で行い、散乱曲線の変化を評価すると共に、アルミナ表面に吸着した腐植物質のナノ構造を評価すための構造モデルを検討する計画であった.試料の凍結方法やフミン酸およびアルミナの濃度や比率,吸着のpH等を工夫し,腐植物質単体、アルミナ単体、及び、両者を共存された複合系におけるSC-SANS測定を達成した.さらに,それらの比較から,アルミナ表面に吸着した腐植物質の微弱な散乱曲線をはるかに強度の高いアルミナ本体の散乱曲線から分離することに成功した.この成果は,表面に吸着したフミン酸のナノ構造の評価に繋がるものであり,研究は順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、まず,異なるラジカル分子を用いて,フミン酸の核偏極条件の最適化を実施する.その後,異なる環境条件における複合系のSC-SANS測定を行い、アルミナ表面における腐植物質のナノ吸着構造の変化を評価する。また、腐植物質-アルミナ複合系に放射性廃棄物処分やレガシーサイトにおける汚染問題で重要となるウランやユーロピウム等の放射性核種、あるいは、その模擬元素を添加し、複合コロイドへの吸着量を腐植物質、アルミナ単体への吸着量との比較から評価する。そして、同様の条件におけるナノ吸着構造の評価結果から、複合コロイドの特異的な吸着特性と構造の関係に迫る。
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次年度使用額が生じた理由 |
加速器施設での設置スペースの問題から,2020年度におけるマイクロ波アンプの導入を見送り,既設のものを流用した.当該助成金については,2021年度に執行予定である.
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